File.13-6 ページ34
𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ
April fool
月が二人を分かつ時
漆黒の星の名の下に
波にいざなわれて
我は参上する
怪盗キッド
Poisson d'avril
月輪が罪人を手招く時
黄昏の星に相応しく
失われし明星の如く
羊を数えて降り立たん
Carroll Notes
「それで、態々こうしてお金を払って高いところに来た訳だけど」
相変わらず雨の休日。
渋谷に聳え立つ高層商業ビルの展望エリア。雨模様の直中に入場料を支払ってまで訪れる人は少なく、室内のガラス張りに整備されたエリアと言えども人は疎ら。そんな場所で東都タワーと米花博物館、杯戸シティホテルを眺めながら雑談に花を咲かせる。訳も無く、普段見慣れた高所の景色と遜色無い高さに入場料を支払うとは何とも非効率であり、然も雨という悪天候。
「まあ、そんな怒んなって。一回来てみたかったんだよ此処」
なんて隣で笑う彼は、雨でも眩しい笑顔は変わらないらしい。
「別に怒ってないけど...どうせなら晴れた日に来たかったな、って」
何も雨の中を好き好んで展望施設に来たわけでは無いのは知っている。必要も大して有りはしないが、一応の下見というもので、博物館やらホテルやらを眺めに来たに過ぎない。予定としては、東都タワーから飛び立って迂回しながら杯戸シティホテルを中継地点に据え、米花博物館へと向かう飛行経路だが、警察の出方によっては博物館までは行かないかも知れない。
それも、中森警部が予告状を読み取ってホテルで待ち構えているか否か、に掛かっているのだが。
昨日から変わらぬ雨色に霞んだガラスに触れながら膨れた頬は、さらりと指先が滑ってきた所為で僅かに萎む。次いで其の儘頬を軽く突き始めた指を捕まえれば、小さな笑い声と共に指を握る手に吻が触れた。
「次は夜景観に来ようぜ」
「.....考えといてあげる」
考えておく、なんて快諾と何が違うのか分からないけれど。素直に頷くのは何だか負けた気がして、可愛くない事を口走る。それでも満足そうに笑ってくれるから、私は屹度彼には敵わない。
恋とやらは厄介だ。
握っていた手を返して、相変わらず細く白い其の手首へ口付ける。触れるだけの戯れを見咎める客は居ない。少し驚いたような快斗へ悪戯に笑ってみせて、フロア内を散策する様に足を運ぶ。
帰りに土産コーナーで何か買ってかえろうかな、なんて考えていれば雨の陰鬱さも少しは良くなった気がする。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月21日 3時
