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服装が変だったのか、それとも彼の好みとは程遠い格好だったか。
チェックの膝上ワンピースにパーカーを重ねて、黒いタイツで脚を覆った格好に、雨模様を考えてショートブーツにする心算だったが彼の趣味とは合わなかったのかも知れない。なんて考えながら「変...?」と首を傾げてみれば、微妙な表情の儘小さく苦笑して。
「いや...デート、つっても夏月とだよな、って思ってよ」
「あー...まあ、素顔でも良いんだけど」
さらりと流した儘の黒髪の毛先を指に巻き付けながら、彼と同じ様に苦笑してみせて。
万が一高校の同級生と出会った時、髪が違って眼鏡を掛けているとは言え、同じ顔の別人が彼と歩いていたら流石に怪しまれる。そもそもは快斗に気付かれないように軽過ぎる変装していただけなのだから、イメージチェンジで染めてみた、なんて地毛で登校しても別に構わないのだけれど。
でも、今は理由が変わってきていて。
「私、快斗だけの特別で居たいから」
素顔も名前も、人に言えない悪行も。快斗だけが知る秘密、なんて素敵な気がするから。
巻き付けた髪を背後に流しながら「だから他の人には見せられないの」なんて悪戯に笑ってみせて、吃驚した様に綺麗な双眸を見開く彼を残して重たい扉を開く。一緒に出掛ける相手を残して我先にと階段を上がり始める私の後ろから「ちょ、っ...待てって!」なんて制止の声と共に階段を上がってくる彼へ、立ち止まる訳でも無く気にせず自宅への扉を潜る。
「...で、お昼ご飯は決まった?」
くるりと回る壁を抜けて書斎というか書庫というか、本棚の群れを押し込んだ様な部屋へと出る。隣を歩く彼の悩ましげな声を聞きながら其の儘外へと出て、二人して傘を差す。
傘の分だけ空いた距離に、少しだけの寂しさを感じつつ、
「そういや、米花駅の近くにオムライスの店が出来たらしいぜ」
「オムライス美味しそう」
何も変わらない会話を咲かせていく。
これから盗みの算段を考えよう、だなんて想像出来ない様な雰囲気は、それすら当たり前の日常だからに他ならない。
私達の日常は、ふつうとは違うから。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時