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File.13-2 ページ30

盛大な溜息が飛び出すのと、膝から頭を退けて起き上がった快斗が「お疲れさん」なんて頭を掻き乱してくるのは同時。



「もー、折角米花博物館行く予定だったのに」



先日から米花博物館で開催されている『世界の宝石展』へ、輝かしい宝石を観に、というより今回彼が狙う予定の世界最大の黒真珠を下見に行く心算だったのだが、朝から出掛けるプランが台無しだ。昼食を外で食べて午後は何処か行ければな、なんて予定は一本の電話で砕け散った。



「まあ、そう膨れんなって。今から出て先に飯食ってから行こうぜ」



キッチンでココアを作って来た快斗がマグカップを一つ差し出しながら笑って、隣に腰を下ろしてくる。渡されたココアを受け取って一口傾けつつ吐き出した息は、溜息というよりは感嘆に近い。



「...快斗がイケメン過ぎて怖い」



他人を責めず、過ぎた事を引き摺らない。見倣うべき事だが、彼は気掛けて然う在ろう、という訳では無く自然とそうである所を見るに、真なる出来た人間なのだろうと長らく思い続けている。温かいココアを傾けて「何だよそれ」なんて笑う快斗に、最早溜息しか出ない。



ハイスペック性格満点男と一緒に居られる日常に感謝しなければ、バチが当たりそうだ。



「あ!まさか散々持ち上げて、たっけぇ昼飯せがむ心算じゃねえだろうな!?」



「...、.....良いよ、何でも奢るから食べ行こうよ」



少しだけ、感動を後悔したがもう遅い。



偶に少年の様な無邪気さとあどけなさと、幼い思考が垣間見えるが、そんな部分があるからこそ奇抜で奇天烈で人々を存分に楽しませる技術が活きるのだろう。彼のそんな可愛らしいところも好きなのだから、惚れた者の弱みというやつなのかも知れない。



マグカップを片手に立ち上がり、空いた其をシンクに片付けてウォークインクローゼットというより最早洋服店に近い部屋を開ける。扉を挟んで水の流れる音を聞きながら外出用に着替えて、黒髪のウィッグを乗せてとウェリントングラスを掛ける。快斗が素顔で登校して街を出歩く以上、学校と同じ顔が都合が良いのだが、正直毎回面倒ではある。



着替えを済ませて戻れば、マグカップを洗い終えた快斗と目が合って、



「.....なに?」



何とも微妙な表情が返ってきた。






.

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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時

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