File.12-16 ページ28
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イングラム公国の女王陛下と王子を乗せて、怪盗キッドが犯行に及んだ日本の誇る豪華列車『ロイヤル・エクスプレス』が大阪に到着した翌日。
ごくごく平穏な休日の午後。
国際美術館で開催中の『ロシア皇帝の至宝展』として開放しているメインフロアの展示室が、何の前触れもなく白昼の中で人間の視界は勿論、監視カメラの目をも奪う閃光が弾け、展示室に居た一般客や警備員の聴覚を一時的に奪取する大音響が炸裂した。
時間にして僅か十秒足らずの瞬間的な衝撃に、人々が脚を止めて目を閉じ、耳を塞いで蹲る中。
サングラスとヘッドフォンを着けた人影が素早く駆け抜け、ロシア最大のエメラルド『深愛の息吹』が収められているガラスケースを、手袋の形を模して作られた小型レーザーで手早く円形に切断して、眩い閃光が収まるより先にその場から逃げ去っていたなど誰も気付きはしない。
暫く続く目眩と耳鳴りから人々が解放され、未曾有の大災害かテロリズムかと困惑していた視界が、すっぽり穴の空いた展示ケースを発見した時には緑色の輝きは無く、
I long to steal your kisses,
your thoughts,
the whole of your heart.
Queen of Lupine
という文字が踊る一枚のカードが残されていただけ。
白地に金色のルピナス柄に、透かしで薄くLの花文字が飾られたカードに人一倍の興味を示したのは一体何人居たのか分からない。
入場客で混雑する美術館内で前兆も無く起きた事件に、素早く対応出来る者など誰も居ない。宝石が盗まれたと気付いて規制線を張ろうとも、その頃には既に緑色の石は遥か遠く。スタングレネードを焚いた女は、隣を歩く男が街中に残されていた間に購入していたらしいカフェラテを受け取りながら笑顔を見せて。
「これ昨日からの、キャラメルクリーム...?」
「やっぱ期間限定って響き、魅力的だよな」
温かいカップを両手で堪能しながら「ありがとう」と楽しそうに微笑む女子高生のポケットに、時価数億は下らない大きな宝石が仕舞われているなど、街行く通行人が知る由もない。
「さて、んじゃあ次は王道でたこ焼きでも食いに行くか」
「たこ焼きなら梯子できそう」
カフェラテにたこ焼き、なんて組み合わせを指摘する人間も、いない。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時