File.12-14 ページ26
「ああ...なんと言う事でしょう.....」
スマートフォン片手にアリスを一口、二口と喉へ流しながら悲嘆に暮れる女王陛下の声を聞く。
怪盗キッドに宝石を盗られた、と悲しんでいるのだろうが、彼女は屹度知らない。この列車の屋根の上で自分の息子が謎の男に銃口を向けられ、それを救ったのがキッドだなんて真逆考えもしないに違いない。
「私の所為で、国の大切な財産を失ってしまいましたわ...」
私の宝石、では無くて、飽く迄国の宝だという考えは素晴らしい。
偽りでも大袈裟でも無い声を聞きながら、国際美術館の営業時間から館内図を軽く確認していれば「悪ぃ、待たせた」なんて待ち合わせをしていた男女程度の軽い声が降ってくる。顔を上げるより先に隣へ腰を下ろしてきた快斗は、背後で漂う悲嘆を一瞥しつつ飲みかけのコリンズグラスへ手を伸ばした。
「大丈夫だった?」
「ああ、彼奴らが紛れてたみてぇだけど...何とかな」
傾けたサラトガ・クーラーをテーブルに戻しながら「サンキューA」と頭へ手を乗せてくる彼へ柔らかく笑みを返していれば、パタパタと軽く小さな足音が耳を掠める。
「お母様...」
落ち込んだような、掠れた小さな声。
それに釣られて振り返った視界に映るのは、驚きながら「フィリップ!?」と叫ぶ女王陛下と、綺麗な服を所々埃や煤で汚しつつ咋に眉を落とした王子。
「ごめんねお母様...怪盗キッドを屋根に追い詰めて宝石を取り戻そーとしたんだけど、盗られちゃった...」
大方キッドが言わせているのだろう台詞だが、部分的には事実なだけあって淀みは無い。上手いこと黒い怪しい人に襲われた、を伏せている所為でキッドと取っ組み合ったような服の解れや汚れに見えてくるのだから、キッドと王子が何をしようとしているか察しが付く以上、実に効果的だ。
「!?」
サロン車に居た乗客は勿論、警察や黒服達が静かに見守る中。
「!...、.....お、お母様...」
思い切り振り被った女王の左手が、幼い王子の左頬を抉る様に叩いた所為で、車内に一層の静寂が満ちた。
「どうして私の言う事が聞けないの、どうしていつもいつも危ない真似ばかりするの...。これじゃあ何の為に、父親の代わりとして心を鬼にしてまで厳しく育ててきたか.....」
父親は厳しく、母親は優しく。なんて決まりがある訳では無いのだろうけれど。父親を早くに亡くした子どもを育てる、というのは想像出来ない程悩ましいのだろう。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時