File.12-10 ページ22
女王陛下と王子との板挟み。
そう物語った表情で「先程から、陛下が御怒りですよ」と苦笑する男性が不憫だ。それに、王子が此処に居ると女王陛下の意識が此方に向いて仕事にも差し支える。
「ほら、早く帰れってよ」
「泥棒に襲われたら大変ですし...」
ちらりと見た先の女王陛下が鬼の形相で此方を凝視めてくるものだから、快斗と二人して王子に声を掛けてみる。それにしても中森警部は何をしているんだか。隣の陛下を宥めるか、王子を連れて行くか何か働いてもらいたいものだ。
「ボク帰らないよ!此処にいてキッドからお母様と宝石を守るんだ!」
しかし、此方の気も知らないで堂々と宣言して見せた少年を此方が無理矢理押し帰す訳にも行かない。僅かな静寂に、扨如何したものかと「お母さん想いなんですね...」なんて添えてみれば、
「お母様なんて大嫌いだよ!」
守る、と言い放った時より大きな声がサロンスペースに響いた。
快斗の後ろで思わず「...わお」なんて零れるが、その声を拾うのは彼以外に居ない。
「お母様...お父様が死んでから変わっちゃったんだ...。前は、あんなに優しかったのに...今はボクを見る度に怒鳴ったり怒ったり、口を利いてくれない事だって...、.....きっとボクの事嫌いになっちゃったんだよ!」
あんなに優しかった、なんて羨ましい限りだ。
父親は兎も角、母親が優しかった事等一度も無い。母親に好かれているだなんて感じた事も無い。初めから好きだとか嫌いだとか、屹度そういう感情の範疇には無かったのだろう。だから彼の言い分は全く分からないけれど。
「でも、お父様と約束したんだ...これからはボクがお母様と国を守るって。だから、だから.....」
母親も、父親代わりに厳しくしなければならない、という責任感は屹度あるのだろう。
とは言え、
「どうやら貴方は、口で言っても分からないようですね」
美人が怒ると怖過ぎる。
音も無く王子の背後まで歩み寄った女王陛下は、其の威圧感と形相に顔を引き攣らせる私達を余所に王子の襟を掴み上げ、まるで仔猫の様にぶら下げながらサロン車を縦断していく。
「二度と此処に来る事は許しませんよ!」
そして、サロン車の出入口を開け放つと同時に通路へ放り投げ、容赦も遠慮も無く扉を勢い良く締め切ってしまう。
子ども心と親心は、如何やら噛み合わないらしい。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時