File.12-9 ページ21
国を収める血筋、なんてなった事等無いけれど。
大変なんだろうと在り来りな感想は飛び出す。幼い頃から身形に気を使って、言葉遣いやマナーも学ばなければならないのだろう。それに、一般家庭の様な家族団欒がどれだけ確保出来るのかも想像出来ない。
「王子、可愛らしい人形をお持ちなんですね」
「これ？お父様の贈り物なんだ！...はい、見せてあげる！」
だと言うのに、こうも真っ直ぐ育つのだとすれば、それは母親の子育てが彼に合っているからなのだろう。
可愛らしいテディベアを抱いた少年へ声を掛ければ、今は亡き殿下からのプレゼントを他国の平凡な一国民へ差し出してくる。優しいのは素晴らしいが、危機感は持った方が良い。純粋な子どもとは恐ろしい、とは思いつつ「ありがとうございます」なんて笑みを貼って縫いぐるみを見せて貰う。
ファスナーは無く、首が取れる気配も無い。頭と身体を押してみても宝石らしき硬さは見当たらない。
ちらりと此方を見てくる快斗へ首を振ってみせて、一応彼の方へ縫いぐるみを横流しにする。自分の手でも縫いぐるみを確認し始めたは良いが、中々容赦なく縫いぐるみを押したり摘んだりと、大凡テディベアを見る人間の手付きでは無い。
「...。ねえねえお兄さん！」
そんな遠慮の無い彼の手元を暫く眺めていた王子は、表情ひとつ変えない儘快斗の袖を引きながら口を開いて、
「へ？」
何かを耳打ちした。
直ぐ様返った間の抜けた快斗の声と、次いで「じょ、冗談は止めてくださいよ王子！」なんて顔を引き攣らせながらテディベアを少年へ押し付ける様子を見るに、大方「怪盗キッドでしょ？」とでも言われたのだろう。
「なーんだ、違うの？ボク、宝石の隠し場所知ってるのに...」
「...え？」
「でも、教えてあげなーい！」
王子が王子という立場なだけに人を小馬鹿にしているのか、それとも快斗が子どもに懐かれる性格なのか。何方にしろ他国の王子様に弄ばれている快斗は、頬を引き攣らせながら乾いた笑い声を上げている。
「フィリップ王子...此処は危険で御座います、早くお部屋にお戻りを」
そんな僅かに角張った雰囲気に割って入った声。
女王陛下の傍で中森警部へ声を掛けていた事から日本警察の誰か、なのだろう眼鏡に鼻下髭を生やした男性は、此方を叱るでも無く目もくれずテディベアを抱く少年へと向けられた。
危険の原因と話しているというのに、おかしな話だ。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月21日 3時
