File.11-3 ページ3
どこかに出掛ける、なんて。
普通は如何言うところに行くものなのか分からないし、水族館は駄目で動物園は寒いし、トロピカルランドは中森青子と既に行っていて目新しくないだろうから。
何処が良い、って言えばいいのか分からない。
毛布を被った儘もそもそと寝返りを打って背凭れの方へ向く。カフェかデパートか、アウトレットか、色々浮かぶが特に行きたい訳でも無い以上、唯の散歩になりそうだし如何したものか。
「なあA、デート行こうぜ」
行先を考えてる、なんて勿論知らない快斗は被った毛布を巻き付ける様にしながらソファから引き摺り落として、後ろから腕を回してくる。ずるずると床に落とされた挙句蓑虫の様にぐるぐる巻きで捕獲される、なんて経験は初めてだが、相手が相手なだけに危機感は特に無い。
「...どこ行きたいの?」
蓑虫の儘背後の彼に凭れ掛かって、ふわりと零れた欠伸を受け止める手も出ない窮屈さを取り敢えず受け入れる。味を占めたのか、特に意味は無いのか、柔々と耳介ごと咥えて食みながら「んー...」なんて悩んでいるかの様な声を上げるが、口を離す気が無さそうなところを見ると応える気は無いのかも知れない。
「ちょ、っと...快斗、くすぐったい.....」
手も足も出ない、とはこういう時に使うのか。なんて。
腕は毛布の中に仕舞われて、脚は左右揃えた儘巻かれて。完全な寝起きで毛足の長い冬仕様のルームウェア一枚では、勿論特殊な小道具も刃物も煙幕やら催涙弾の類いは持ってない。抜け技が無い訳では無いが、的確に腰と肩を押さえてくる辺り、流石将来の天才奇術師というか。
「...か、いとっ...やだ、ってば...!」
遠慮、というか距離感、というか。其が無くなったのは数日前からだった気がするが、朝から堂々と手を出してくる辺りを見ると本当に真綿で包んで大事に仕舞い込む心算は無くなったのだろう。
「すげぇ良い匂いすんな」
「やぁ、っ...も、わかった、から...」
頭を振って髪を流してみても、気にする事も無く反対の耳朶に吸い付いて、鼓膜を直接震わせる様に小さく呟いてくる。一層力が入って膝を折るが、身体が丸まるだけで何の意味も成さない。
終わりの見えない戯れに、先に音を上げるのは私だなんて目に見えているから。
「一緒にいれる、なら何でも...べつに.....」
ちらりと見上げて口を尖らせながら微かに呟く。
何処かの悪女から教えられた事が活きるのは珍しい。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時