File.12-5 ページ17
息を吸ったのか、吐いたのか。
声というには意味を成さない音が喉から漏れた気がしたけれど、それすらも幻聴だった気もする。悪戯に見上げた筈の顔は驚愕と羞恥に攫われて、鼓動すら止まった様な感覚に時間を忘れて。
「...んだよ」
「.....ぁ、いや、うん...」
列車の個室通路で二人して顔を赤くしながら立ち止まる高校生、なんて怪しさすらあるが、幸い他の乗客は居ない。
最近特に隠すことも調弄す気も無くなったのか、正面からものを言うようになった彼へ近頃思う事がある。そろそろ真意を確かめてみるべきかも、なんて深々と息を吐き出しながら見上げた先の彼の頬を引っ張ってみる。
「ねえ...もしかして、反応見て楽しんでない?」
「.....んなわへひぇえひゃろ...」
ぐいぐいと引っ張る頬を其の儘に、手を離させるでも無く否定を口にする快斗を睨み上げてみるが、不愉快そうな半眼を向けこそすれ其以上の反論は無い。
「...あんまり虐めないでよね」
引っ張りながら摘んだ頬を解放して、真っ赤に染まった頬を擦り始める彼を置いて先を行く。あと二車両を越えれば女王陛下が居る目的のサロン車だ。
「ったく、しゃーねえだろ...事実なんだから」
「ほら!そういうとこ!」
後ろを歩く彼の不貞腐れた声に、脚を止めず振り返りながら指を差す。
近頃、私の耐性が無くなってきたのか、それとも彼の紳士指数が上がっているのか。将亦両方なのか。若しかすると、私が彼の然ういう部分に気付くようになっただけなのかも知れないけれど。
「もう...快斗の所為で早死したら責任取ってよ」
人間の生涯における拍動回数は決まっている、というから。
彼が私の鼓動を早める度に寿命が縮んでいるのかも知れない。なんて、こんな人生を歩いておいて寿命を全うしようだなんて烏滸がましいにも程があるけど。
「安心しろよ、オレだって同じ位寿命縮んでんだぜ」
「...あー、聞こえない聞こえない」
隣に並んできた快斗から大袈裟に視線を逸らしながら、耳を塞いで棒読みに声を上げる。こうして見ていれば唯の高校生同士に見えるのだから、人は見た目に拠らない。
真逆、今からイングラム公国の至宝を頂戴しようとしている泥棒だなんて、本人達以外知り得ない。
.
33人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時