File.12-4 ページ16
ぼんやり窓から外を眺める快斗の袖を引いて、スマートフォンの画面を見せる。手の平に収まり切らない鮮やかな緑色の宝石へ目を向けた彼へ「お土産これにする」なんて笑って見せれば、若干引き攣った様で呆れた様な顔が返ってくる。
「流石、サラブレッドのお姫様...」
最早嫌味でしかない声に「あの人がお菓子で喜ぶ訳無いでしょ」と頬を膨らませるのと、
『聞いてるか怪盗キッド!このワシが居る限り!宝石には指一本触れさせないからそー思え!!』
突然の爆音で中森警部の怒声が、イヤホンを割る勢いを持って鼓膜を叩いたのは粗同時。
「.....っ!」
「...いったあ.....」
バリッなんて音を最後に受信を終わらせたイヤホンを外しながら、甲高い耳鳴りを響かせる耳を押さえる。小さく「あー」なんて声を出してみて、きちんと聴こえているらしい音に一先ず安心するが、暫く耳鳴りは止みそうにない。
なんて事に巻き込んでくれたんだと隣を睨んでみても、彼も同じ衝撃でそれどころでは無いらしい。
女王陛下の個室へお邪魔した際に、そもそも偽物だった宝石に盗聴器を仕掛けたらしいが、子どもの観察眼とは何とも恐ろしい。しかも中森警部に盗聴器を特定されるだなんて、今日は先が思いやられる。
「もう...こんなものに頼れないなら仕方ないわね」
イヤホンをポケットへ仕舞いながら立ち上がる。不思議そうに見上げてくる快斗へサロン席の予約チケットを二枚差し出して見せて。
「私、お腹空いちゃったからサロン車に行ってみない?」
少し吃驚したような、意外だとでも言いたげな表情を一瞬見せつつも、直ぐに普段と変わらない笑顔を見せた快斗は手を取りながら立ち上がり、
「良いぜ、折角だし美味いもんでも食ってくか」
取った手を引きながら、方向も迷わずサロンスペースへと足を向ける。緑のギンガムチェックのシャツに黒のセーターを重ね、ベージュのスリムジーンズという清潔感と素直さを纏わせた格好に、セミロングのパーカーコートというお洒落な後ろ姿。
「かーいと」
一般車両から個室が並ぶ車両に出た先、人の居ない通路で腕を抱き締めながら名前を呼べば、特に気にした様子も無く「ん?」と振り返る真っ直ぐな双眸。
「いつもより格好良いのは女王陛下のため?」
見上げた先の紫掛かった碧の宝石が少し泳いで、
「バーロ...誰かさんと釣り合うように背伸びしてんだよ」
飾り気の無い言葉で撃ち抜いてくる。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時