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File.12-3 ページ15

『ほ、本当ですか陛下!!』



イヤホンから中々の音量で響いてくる中森警部の声を聞きながら、開いていたファッション雑誌を閉じてスマートフォンを開く。大阪に到着するのは夜になるから予定通り一泊する事にはなりそうだが、明日帰るまでに何処か見物に出掛けても良い。



快斗が何処か行きたい場所があるかは分からないけど。



『ええ、我がイングラム公国の宝を盗みに参られましたの...。ヨーロッパ最大のトパーズである、この『クリスタル・マザー』をね』



『な、なんという事だ!矢張り大使館に届いた予告状は本物だったのか...』



『し、しかし...何故奴はその宝石を持ち去らなかったんですか?』



一般車両より数倍騒がしいイヤホンの向こう側を惘聞き流しつつ、駅周辺で誰かさんへの土産を買うだけでも良いか、なんて眺めていた観光名所の数々の中。職業病とも言うべきか、目に付いた美術館の文字と開催中のロシア皇帝の至宝展、の見出し。



『一目見てきっと彼にも分かったんですわ、これが偽物だと』



『に、偽物!?』



ロシアが誇る宝石類は数多く、ダイヤモンドにアレキサンドライト、トパーズ、ガーネット、アメジストと名高い輝きの宝庫とされているが、国際美術館で開催されている至宝展の目玉はロシア最大のエメラルド『深愛の息吹』と呼ばれるビッグジュエル。



なるほど、大阪土産とはこれの事かと。



『ええ、本物は別の場所に隠してありますわ』



『ど、どこに?』



『それは警部さんにもお教え出来ませんわ...。この列車の中で、彼が聞いているかも知れませんからね』



大阪行きの列車に怪盗キッドが乗っているのは確実である以上、大阪で犯行に及ぶのはキャロルの方が良いだろうが、準備も何も無い所為で多少大胆に行くしか無いのは仕方無いと諦めるか。



さて、どうしたものか。



『これは彼と私の勝負。この列車が大阪に着くまで後二時間半...それまでに彼が予告通り宝石を盗み出すか、私がそれを守りきるかの、国の名誉を賭けた一騎打ちですわ!』



まあ、予告状無しで大胆に動ける人物を知ってはいるけれど。



『ねえお母様...その首飾り、ちょっと変じゃない?』



突然、イヤホンから聞こえてきた幼い声。この列車に乗る少年の中でイングラム公国の女王陛下をお母様、なんて呼べるのは一人。イングラム公国の次期国王。



フィリップ・マクシミリ・アン・ド・イングラム。



正真正銘本物の王子様だ。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時

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