File.12-2 ページ14
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薄いバーミリオンのオフタートルケープニットに、白のフレアスカートを合わせて、相変わらずの黒髪は緩くポニーテールに纏めてクリーム色のレースリボンで結んでおく。
捲る雑誌の内容等、興味は無いけど。
夕陽が未だ顔を見せていた夕方に東京を出発した豪華列車『ロイヤル・エクスプレス』は、数時間で大阪駅に到着する。イングラム公国から日本へいらっしゃったセリザベス女王陛下が、日本を満喫する為にと息子と乗車しているこの列車には、陛下と王子以外にもうひとつ、イングラム公国の宝が乗り合わせている。
「よっ、待たせたな」
「おかえり、快斗」
一般車両は指定席仕様で、女王陛下が乗っている列車だと言うのに一般客用に開放されている。貸し切りにしなかったのは女王陛下の意向か何かだろうが、随分不用心だ。女王陛下と王子は勿論特別個室が用意されており、車両は別だが、この細長い鉄の箱は動く孤島と何ら変わりない以上女王陛下は当然の事、怪盗キッドが狙いを定めた宝石に出会う事は容易い。
「どうだった?」
数十分の離席を経て戻って来た快斗は隣の窓側席へ腰を下ろしたかと思えば、自分の耳を指差してみせながら悪戯な笑みを咲かせる。其に倣ってワイヤレスの小型イヤホンを片耳へ差入れてみる。
『お気に召しましたか?女王陛下...これが、我が日本が誇る豪華列車『ロイヤル・エクスプレス』で御座います』
明瞭に小さな機械から聞こえてくるのは、男性の声。女王陛下へ直接のお伺いを立てている事からして、政府高官か警察か、大使館の人間か。
『ええ...とても気に入ってますわ。有名なあの方とも、お会いする事が出来ましたしね』
『は?...陛下の護衛を担当している、中森警部の事ですか?』
怪盗キッドがイングラム公国大使館へ予告状を送ったのが数日前。そして、予告通りにヨーロッパ最大のトパーズ『クリスタル・マザー』を頂戴しに行ったのが数十分前。然しながら、手ぶらで戻って来た彼は何処かに盗聴器だけを仕掛けて来たらしい。
『いいえ...。先程私の個室に参られた...怪盗キッドという、盗賊の事ですわ』
女性の部屋にまで押し入って盗まず出てきた、という事は本物では無かったのだろう。
『ええっ!キッドと会われたのですか!?』
そもそもイングラム公国所有のトパーズが偽物、という事では無いのなら。
セリザベス女王は頭の切れる国主の様だ。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時