File.12 クリスタル・マザー ページ13
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学校からの帰り道。
今日も今日とて二人で並んで帰路に着きながら、昨日のバラエティ番組からドラマ、授業の話など。普通の高校生と何ら変わりない会話をしながら、普段とは違う道を進み大通りから外れた路に口を開けた階段を降りる。
「おや...いらっしゃいませ」
アンティーク調の黒い扉を開けた先のカウンターに立つ、柔らかい笑みを浮かべる店主へ「どうも」と軽く挨拶を返しながら彼の目の前に位置する席に座る。『Gitanes Caporal』は相変わらず客の姿など見えないが、その方が有り難い。グラスを丁寧に磨いている店主へ「あります?」なんて手短過ぎる質問を投げ掛ければ、一拍を置いてグラスが置かれた。
「ええ勿論、お約束通りに」
変わらぬ微笑みの儘、カウンターを滑らせて差し出されるのは白い封筒。無地の其へ目を落としつつ、持ち上げず其の儘隣の快斗の前へ滑らせる。彼が其を手に取って開封する様子を横目に、鞄を開けて茶封筒を店主へ差し出す。
其を受け取って中身の日本銀行券一束を確認し始める彼を余所に、快斗の手元へ目を向けて「ちゃんと本物?」と覗き込めば僅かな呆れ顔を見せる快斗と、間髪入れず札束で頭を叩いてくる店主。
「いったあ...」
「貴女は私を何だと思っていらっしゃるんですか?」
百枚の紙束とは思えない音と衝撃に、金地金か何かかとすら思うが、握られている封筒から半分飛び出しているのは確かに銀行券。紙だったとは考えられない打撃を受けた頭を抑えながら「泥棒は信じるな、って教えてくれた癖に」なんて頬を膨らませてみせる。
嘘つきは泥棒の始まり。
つまり、泥棒は嘘つきだ。
血が繋がっているからとか、自分の家族だから、なんて考えで信用してはいけない。そんな事を私に教えたのは自分だったと忘れた訳では無いだろうに。「さあ、何の事でしたかね」だなんて白々しいところを見るに、忘れている筈も無い。
「それにしてもロイヤル・エクスプレスとは...。大阪のお土産、楽しみにしておきます」
「ええ、沢山買ってきますよ」
豪華列車と名高い『ロイヤル・エクスプレス』の乗車券二枚を懐へ仕舞った快斗が、綺麗な笑みを浮かべながら応える中。
「.....土産なんて興味無いじゃん」
頬杖を付いて零した溜息は、静かな店内に溶けて消えて行った。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時