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『今日トロピカルランドに行くんだけど、お土産何が良い?』
電話の相手は毛利蘭。彼女がこんな時間に電話をしてくるのは珍しい。休日の早朝から何かと思えば、行った事の無い場所の見た事の無い土産の話。トロピカルランド、と言えば快斗が中森青子と行った遊園地だったか。
なんて思考を回して。眠気が、下降し始めた機嫌に馬乗りされる。
「...なに、新ちゃんとデート?」
急激に下降した機嫌の雰囲気を感じ取ったのか、緩く髪を梳いていた手が止まる。私の不機嫌の理由が何だと思っているのかは扨置き、止まった手が慰める様に緩々と再び頭を撫で付け始めた。
『デ、デートじゃないわよ!都大会で優勝したら連れて行ってくれるって約束しただけで!』
「良いじゃん。トロピカルランドは絶好のデートスポットなんだし、観覧車で告白すれば上手く行くかもよ」
トロピカルランド、という単語に再び手が止まる。ちらりと見上げた先の快斗は、隠す事も無くバツが悪そうに視線を流してしまう。電話越しでデートを否定する彼女は、然し、満更でもないのか声だけでも分かる程に狼狽えている。
『と、とにかく!欲しいものがあればメールしてよね!』
「はーい、ごゆっくりー」
態々電話してくれたのは有難いが、土産のラインナップなど知らない。
慌てながら早口に告げてくる声へ、のんびり返して通話を切る。音を無くしたスマートフォンをテーブルへ置いて目を閉じれば、頭に乗せられている手がくしゃくしゃと髪を乱していく。
「...、.....なに」
「今日、どっか出掛けようぜ」
柔らかい声と共に、掻き上げられた前髪から覗いた額に吻が触れた。言われた提案に「んー...」と間延びした声を返し、額から瞼、眦へと流れて行く口付けへ顔を逸らすも、逃げる頭を遮る事無く追い掛けてくる。
「...なあ、A」
「んー...、」
眦から耳許へと辿り着いた体温は、間近で名を呟いて。
「ひぁ、っ...!」
朝の寒さの中、髪から覗いた耳朶は彼の咥内へと攫われる。
不意に口を衝いて出た其に、毛布を握った手で口許を押さえるが、一度音になったものは戻らない。一気に体温を上げる身体を縮込まらせて元凶を睨み付けても、何処か悪戯な笑みを乗せた彼は悪怯れもしない。
「目は覚めたみてぇだな」
悪巧みが成功したような笑顔が腹立たしくて、
「おやすみなさいっ」
思い切り腹部目掛けて殴り付け、頭から毛布を被った。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時