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File.11-2 ページ2

『今日トロピカルランドに行くんだけど、お土産何が良い?』



電話の相手は毛利蘭。彼女がこんな時間に電話をしてくるのは珍しい。休日の早朝から何かと思えば、行った事の無い場所の見た事の無い土産の話。トロピカルランド、と言えば快斗が中森青子と行った遊園地だったか。



なんて思考を回して。眠気が、下降し始めた機嫌に馬乗りされる。



「...なに、新ちゃんとデート?」



急激に下降した機嫌の雰囲気を感じ取ったのか、緩く髪を梳いていた手が止まる。私の不機嫌の理由が何だと思っているのかは扨置き、止まった手が慰める様に緩々と再び頭を撫で付け始めた。



『デ、デートじゃないわよ!都大会で優勝したら連れて行ってくれるって約束しただけで!』



「良いじゃん。トロピカルランドは絶好のデートスポットなんだし、観覧車で告白すれば上手く行くかもよ」



トロピカルランド、という単語に再び手が止まる。ちらりと見上げた先の快斗は、隠す事も無くバツが悪そうに視線を流してしまう。電話越しでデートを否定する彼女は、然し、満更でもないのか声だけでも分かる程に狼狽えている。



『と、とにかく!欲しいものがあればメールしてよね!』



「はーい、ごゆっくりー」



態々電話してくれたのは有難いが、土産のラインナップなど知らない。



慌てながら早口に告げてくる声へ、のんびり返して通話を切る。音を無くしたスマートフォンをテーブルへ置いて目を閉じれば、頭に乗せられている手がくしゃくしゃと髪を乱していく。



「...、.....なに」



「今日、どっか出掛けようぜ」



柔らかい声と共に、掻き上げられた前髪から覗いた額に吻が触れた。言われた提案に「んー...」と間延びした声を返し、額から瞼、眦へと流れて行く口付けへ顔を逸らすも、逃げる頭を遮る事無く追い掛けてくる。



「...なあ、A」



「んー...、」



眦から耳許へと辿り着いた体温は、間近で名を呟いて。



「ひぁ、っ...!」



朝の寒さの中、髪から覗いた耳朶は彼の咥内へと攫われる。



不意に口を衝いて出た其に、毛布を握った手で口許を押さえるが、一度音になったものは戻らない。一気に体温を上げる身体を縮込まらせて元凶を睨み付けても、何処か悪戯な笑みを乗せた彼は悪怯れもしない。



「目は覚めたみてぇだな」



悪巧みが成功したような笑顔が腹立たしくて、



「おやすみなさいっ」



思い切り腹部目掛けて殴り付け、頭から毛布を被った。







.

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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月21日 3時

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