File.9 時告ぐる古き塔 ページ10
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「水族館ドッキリ再会ラブラブ復活大作戦...?」
思わず聞き返した其に、隣でパソコンに向き合っていた快斗の手が止まる。
次の仕事の打ち合わせにと、というより普段から入り浸っている彼は今日も早朝から押し掛けて来て、仕事の話だからと我が家の不思議の国に押し込んできた訳だが。そんな彼が持って来たのは、駅前の時計台を盗むというもの。先日ビッグジュエルが鍵だと掴んだばかりなのに、遂に宝石どころか持ち運び出来ないサイズのものに目を付けるとは、と驚いたものだが如何やら違うらしい。
彼が観ていたパソコンの画面には時計台の見取り図と、短針に埋め込まれているというダイヤモンドの写真。
大きなダイヤモンド、というのが所謂ビッグジュエルかは分からないけれど、拝借して見てみる事自体は何ら差し支えない。のだが、彼が訪れて朝食を頂きながら仕事内容を確認して早一時間。浮かび上がった問題がひとつと、彼の私情がひとつ。
それは扨置き、だ。
そんな午前中に突然掛かって来た電話は、とある私立探偵の娘であり、保育園から小学校4年生位まで一緒の学校に通っていた所謂幼馴染の女の子からの一報。
『そう!ほら、私のお父さんとお母さん別居中でしょ?だから仲直りの為に水族館に誘って、運命的な出会いを果たすの!そして2人は愛し合っていた頃を思い出す!...ね!良いアイデアだと思わない?』
「まあ、悪くないとは思うけど...ネーミングセンスは独特ね」
唐突な電話の所為で止まった打ち合わせを待つ間に、と新しく淹れたココアを二杯持ってきてくれた快斗に口パクで感謝を伝えつつマグカップを受け取る。丁度温かい位のココアはいつも通り甘く、相変わらず気の利く紳士は隣に座り直してやや難しい顔をしながらパソコンを見詰め始めている。
『な、名前は園子が考えたんだけど...。って、そんな事より!その作戦用に今度の日曜日、一緒に米花水族館行こうよ!』
終始笑顔なんだろう声音の儘『新一と園子も行くって言ってくれてるんだよ』なんて殊更嬉しそうな彼女に、なるほどと心中納得する。両親の仲直り大作戦だかを考案したのは彼女か高校生探偵かは分からないが、下見と称して意中の幼馴染と水族館とは、賢い一石二鳥だ。
彼女を見ていると、色恋に悩む一般的な女の子の振る舞い、というのが実に勉強になる。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時