File.10-12 ページ39
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何処まで聞かされて此処に来たのだろう。
サマー･デライトとシャーリーテンプルを手に、突然割り込んできた店主に「うわっ！」なんて声を上げてソファの端へと身を引いた快斗を一先ず置いておいて、身体を起こす。乱れた髪の序にバレッタを外して、新たに作ってくれたらしいシャーリーテンプルへ手を伸ばした。
「この葡萄、洗っておいて下さい」
サングリア塗れになったアヤナスピネルと純金をハンカチごと片手で渡せば「どうされます？」と変わらぬ笑顔が降ってくる。女性には人気の顔、らしいが中身を知っている方からすれば怖い。
「んー...まあ、一応...持って帰ります」
宝石にも金にも興味は無いが、見たところあの泥棒さんの手作り。そんなある種貴重な品を捨てる訳にもいかない。彼はこうして時折面白いものを作っては持って来るが、そのどれもが我が家のインテリアとして今も飾られている。盗品を更に加工しているのか、正規ルートで購入しているのかは、まあ考えないでおく。
それに、だ。
始めに押し付けられたバングルだって、如何せ彼が造った小道具なのだろう。雰囲気と流れから「兄貴から」なんて言い方をしていたが、あれは私の直接血の繋がった兄の事では無く、兄の様な自分の事。花染朔夜は『ルブラン』と対比して『ルノワール』なんて呼ばれていて、三代目の彼も大抵その通り名か『黒うさぎ』と呼んでいる。彼の事を兄貴、なんて言った事は一度もない。
素直に、俺からのプレゼント。なんて言わないのは紳士なのか気障なのか恥ずかしいのか、将亦私が受け取らないなんて思っているのか。
スピネルを抱えてカウンターへと戻っていく店主を見送り、テーブルに残されているサマー･デライトを手に取って快斗に渡す。去って行く店主を訝し気に見遣っていた彼は其ロンググラスを受け取ってソファに頬杖を付いてしまう。
「なあA、彼奴何者なんだよ」
聞こえない様に声を潜める、でも無く真っ直ぐ投げ掛けてきた疑問符。
「あれ、私のおばあちゃん」
パサパサのカナッペに再び手を伸ばしながら答えて。
「...は？」
当然そうなる、とも言うべき素っ頓狂な声を上げる快斗を小さく笑いながら乾燥し切ったカナッペを一口齧る。上品で優雅な立ち振る舞いを見せる男が自分の祖母だと告げた人間は初めてだが、誰に言っても同じ反応をするのだろう。
性別も年齢も全く違う、なんて普通考えない。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月11日 1時
