File.10-11 ページ38
相変わらず彩やかなヘンリー・プールの内ポケットを探りながら「それにしても子うさぎに色恋とはなぁ」と呟いてみせる彼が取り出したのは、ポストカード大の白い封筒。
誰が言い出したかは知らないが、ルパン一世のもう一人の孫は『ルパン一族の小さいうさぎ』という意味を込めてラパン、と呼ばれているようで。LupinとLapinの綴りを掛けた言葉遊びらしいが、雄では無く雌兎だと世間は知っているのだろうか。
あの子を直接うさぎ、と呼ぶのはこの男と黒塗れのガンマン位のものだ。ペットか何かだと思っている節は否定出来ない。
「俺に頼まなくたって上手く転がりそうだったぜ?」
開いた封筒の中に収められているカードへ目を通しながら然う言う彼へ、依頼と称して連絡を入れたのは昨日の事。
日曜日から店に入り浸って外出もせず、学校には行く癖に回り道を極めた通学。聞けば黒羽盗一の息子と気不味いだなんて言い出すものだから、親子揃ってあの親子に振り回されているのかと呆れたものだ。それなら丁度日本で仕事を片付ける、なんて言っていたこの泥棒に発破を掛けてもらおう、とインゴットを餌に頼んだ訳だが。
「ほら、バレてやんの」
落としていた視線に楽しそうな色と笑みを乗せながら此方へ見せて来たカードには『織姫様の願いを叶えてる暇があるならお土産位買って来てよね』なんて、日本語の手書きが踊っている。右下に『J'adore tout chez toi.』と添えられた其は、ルピナスと小さな兎の模様が金色で描かれたカード。
あの子がひっそりと忍ばせたのか、この男が気付かない振りで受け取って来たのかは分からないが、如何やら彼女に私の愚策はお見通しらしい。店を出て、あの子を探し回る青年を見つけ出して不審がられながら説得して店まで連れて来たというのに。
「ラブレター貰えて良かったですね」
小さく不貞腐れて見せて鼻を鳴らしながら顔を逸らす。
「ルピナスの姫君の我儘なら、とっておきの土産考えなきゃなぁ」
穢れを知らない様に白い手紙へ口付けを贈り、其を内ポケットへ仕舞う彼は「相変わらず宝石には興味無さそうだしよ」と添えながら金地金の詰まったアタッシュケースを持ち上げる。
「じゃあな、バアさん。まだ死ぬんじゃねえぞ」
ひらりと手を振って歩いていく後ろ姿は、相変わらず何を考えているのやら。
鮮やかな赤は振り返る事無く騒がしい大通りへと消えて行った。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時