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File.10-10 ページ37

𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ




「1ケースで構いませんか?」



手にもポケットにも何も収めない儘店を出てきた小僧に、柔らかく笑みを浮かべてみせる。



都心の地下に居を構える、書斎か図書館をイメージさせたライブラリーバーは、遥か昔から営業してきた犯罪者の社交場。犯罪者といっても多くは泥棒やクラッカー、表には出られない輩で、その殆どがルピナスの一族に縁のある者。



『Gitanes Caporal』という店名は、ルピナスの三代目である彼が愛用している煙草から拝借した事もあって、日本に来る度に彼は此処へタダ酒を飲みに来る。



専ら酒代は、店と私の可愛い孫達の用心棒費だ。



「いらねぇよ...って言いたいとこなんだけっどもな、昨日セスナ壊しちまってよ。有難く受け取っとくぜ、バアさん」



バアさん、なんて呼ばれる性別でも外見でも無いが、この化けの皮の下は正真正銘日本人。女性、と言われても差し支えないだろうかと言う年齢に片脚を突っ込んでいるけれど、酒を扱う店を営業する上では男の身形の方が都合が良い所為で、普段からこの格好の方が馴染んでいる。



「本当なら倍はお支払いする心算でしたが、あの鏡それなりの品なので弁償費として頂いておきます」



1000gの金地金を詰められるだけ収めたアタッシュケースを、壁に凭れながら煙草へ火を付ける彼の足元へ置く。「割ったの俺じゃねえんだけどなぁ...」なんて文句を言ってくるが、噛み付いてくる心算は無いらしく柔く笑みを零しながら紫煙を吐き出すだけ。



「では、私の可愛い孫に『腕が鈍った』なんて嘘を吐いた仕置き、という事で」



店内は勿論盗聴器に監視カメラ等、犯罪者の溜り場としての防犯に抜かりは無い。カメラの性能としては、照準が微かに狂う程の微かな傷がマズルに刻まれているのが見える程。セスナ機を破損させる程の乱戦を切り抜けたばかりの銃を手入れする暇も無く来てくれたのだと思うと申し訳無いが、報酬は一応支払っているのだから問題は無い。



「あらまあ、バレてたのね」



「これでも一応、天下の大泥棒を育ててきた身ですから」



娘は死なせてしまったが、あの子が育てた可愛い孫は生涯を掛けて守り育てていく心算だ。



私の我儘を聞き入れてくれた怪盗紳士との宝は娘から孫へと受け継がれて、あの紳士の名を受け継いだこの男も、価値など計り知れない私の宝をそれなりに見守ってくれている、らしい。



扱いが多少荒いのは、愛情の一種だと思っておく。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時

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