File.10-8 ページ35
「で？」
「んー？」
パサパサに変わり果てたカナッペを食べながら麦茶を飲むという、雰囲気も何もあったものでは無いが、此方は唯の高校生。そんなもの気にはしていない。
「だから、あれ誰なんだよ...」
相変わらず不貞腐れた儘の彼は麦茶は飲むがカナッペには手を出さないらしい。まあ、時間も経っているし当然と言えば当然なのだけど。
「えっと、父親の結婚相手の母親の恋人の息子の父親の孫...？」
倒されたり起こされたりと忙しかっただろうソファに二人で座り直して、すっかり忘れられていたスピネルを一先ず水拭きしながら隣の不機嫌な質問に答える。簡潔に言うと祖父が同じ、だが本当にそれだけなだけに関係は何だと聞かれても困るのが正直なところだ。紆余曲折を経た答えに「は...？」なんて言われるが、疑問を呈したところで関係性は変わらない。
従兄妹、とも違うこの血縁を何と言うのか私には分からないけど。
兎も角。
「同業者で親戚で、普段からあんな感じだから気にしないで」
彼が気にする必要は無いし、彼が関わる様な人間でも無い。
拭き終わったスピネルをテーブルに置き、軽く息を吐きながら背凭れに身体を預けて目を閉じる。目頭と首と肩が痛いのは屹度、久々に気を張ったから。鈍ったと落胆されたくなくて、堕ちたと軽蔑されたくなくて。絶対本人には言ってあげないけれど、それなりに尊敬しているし追い付きたいから。だから、あるかも分からない期待を上回る為に頑張ってきた。
屹度、あの人はそんな事思っていないのに。
「A」
ふと、頬に触れた指先に瞼を持ち上げて視線を左へ遣れば、身体ごと此方を向いた快斗と目が合う。
「悪い...オレ、Aの優しさに甘えてばっかで、何回も傷付けた...」
真っ直ぐ凝視めてくる紫掛かった碧の双眸は真剣で、巫山戯ている心算も嘘偽りを並べている訳でも無さそうで。突然飛んできた謝罪より、彼が事実だと言う様に並べた言葉がしっくり来なくて数回瞬いて。
音も無く滑り落ちたのが涙だなんて、拭われて初めて気付いた。
「別に、私は...」
傷付いてなんかない、って言おうとしたのに。開いた口から零れた声は震えていて、説得力の無さに思わず声を仕舞う。
「私...自分のこと、分かんないから...良く、分かんない.....」
傷付いてたのか、疲れてたのか、悲しいのかなんて。
自分の事なんて、私には分からない。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月11日 1時
