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File.10-7 ページ34

誰もが瞬きすら躊躇う静寂。



果たして何秒続いたかも分からないその時間の中、触れそうな程近い銀色の銃口へ頭を寄せて押し付ける。



「打つ気が無くても、こういう時セーフティは外すものでしょ」



前進し切った引金に指を掛けた儘銃口を大きく腕ごと右へ外し、重ねた視線に口端を持ち上げながらトリガーを引く。一瞥もくれず撃ち出した9mm弾は真っ直ぐ駆け、先程鏡を割ったトランプのスート、中央に赤く咲くHeartを撃ち抜いて鏡面を更に砕いた。



「俺に可愛い子ちゃんが撃てる訳ないでしょーが」



「雰囲気って大事だと思うけど」



細かく罅の刻まれた鏡に刺さった儘のカードへ目を遣り、想定より僅かに上へ逸れた弾痕に、寄った眉をそのままにトリガーガードへ指を通した儘グリップから手を離して硝煙を纏う彼女を差し出す。ワルサーP38が撃ち易いかと聞かれれば、中々癖があるとしか答えられないが、同じ9mm弾にしては反動揺れが微かに見えている気がする。



「彼女、持ち主に似て我儘過ぎない?」



反転して差し出された黒を受け取りながら銀色の一挺を返却してくる彼から其を受け取るのを見計らってか、突然ふわりと浮いた身体は一瞬の内に横抱きに攫われる。驚く暇等無く、目を回して倒れているソファを片脚で起こした泥棒は、其処へ名残惜しさ等微塵も無い儘下ろして。



「使わねぇと忘れちまうのが人間だかんな」



「...、.....それは確かに」



可愛くも無いのにウインクして見せる男へ、似合ってない、なんて冷たい言葉を掛けるのも面倒で取り敢えず頷いておく。なるほど、彼女が悪いのでは無く、私の硝煙離れが原因と言われれば否定は出来ない。



「んじゃまあ、前向きな検討頼んだぜ」



どれもが本音で全てが嘘。そんな男は「リハビリにもなるし一石万鳥!」なんて馬鹿な事を笑いながら吐き出して、乱暴に頭を撫で回してスキップでもしそうな歩調で店を出て行く。



入口付近のカウンターに座って、不貞腐れながら頬杖を付いて見遣る高校生には気にも止めない。



溜息、というより何もかもを吐き出す様に肺の酸素を逃がして、



「麦茶で良い?」



隠す気の無い怒気、では無く殺気すら感じる視線を未だに出入口へと向ける、不機嫌でしかない快斗へ声を掛けながらカウンターへ入って冷蔵庫を開ける。



コップに麦茶を入れる直前で「...おう」なんて怒ってしかいない声が聞こえたが、返事はしてくれるらしい。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時

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