File.8-4 ページ4
𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ
インド最大のサファイア。
そう言われる青い宝石は大人が握っても指が触れ合わない程の大きさで、開催中のインド大秘宝展にて展示されている。
そんなサファイアを盗むと予告したのは怪盗キッドであって、キャロルでも『私』でも無い。だと言うのに私が博物館近くのビルで張り込んでいるのは、今朝彼が言った電話の事が気掛かりだったから。なんて言ってはみたけれど、別に彼の心配をしている訳では無い。
あんな陳腐な組織に敗北する位なら、好きにはなってないから。
だから快斗は大丈夫だとして、折角組織の輩と接触出来る機会なのだ。このチャンスを無駄には出来ない。
黒のセミロングに黒いラビットファーのベレー帽を乗せ、黒一色のフリルワンピースを着て、博物館内を双眼鏡で眺める事暫く。夜風がふわりと裾を捲って黒のハイソックスを晒していく中、博物館から白い影が飛び出してくる。
それを合図に双眼鏡を畳んで仕舞っていれば、ひらりと舞った白い翼が博物館から手近なビルに着地した。
肉眼でも視認出来る其処に降り立ったキッドは時計を確認しているのか、手首を見ている様な仕草で屋上の縁に立って真下を勢い良く流れて行くパトカーの赤を見送っている。
私の予告日でも無いのに怪盗キッドの犯行現場近くにチェシャ猫がいる等、可能性の一つにも入れないだろう上に、アリスと違って黒一色では夜に溶けて見極めるのは困難。今地上に降りたところで私が追われる事は無いだろうと立ち上がった時。
「...ビンゴ」
夜風に紛れる事の無い銃声が響いた。
仕舞い込んだ双眼鏡、では無く黒縁のボストングラスを掛けて丁番近くに忍ばせてあるボタンを押す。一見すると唯の素顔隠しの眼鏡だが、望遠機能やら何やら多種多様の使い道がある、らしい。兄やら自称兄から大量の便利道具が送り付けられるが、今回のこの眼鏡は寺井さんから頂いたものだ。
何でも、知り合いの誰かの試作品らしい。
そんな、何に使うのか分からない便利眼鏡でキッドがいるビルを確認してみれば、相変わらず縁に立ったキッドと彼を追い詰める様に囲む数人の男達。
その先頭に立つのは、トレンチコートにハットを被った男。
名前は、扨何だったか。兎も角盗一さんと両親を貶めた輩達の一員であるのは間違いなく、昨夜快斗に電話を掛けてきた人物。
不老不死の呪いに蝕まれた、愚かな男達。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時