File.9-18 ページ27
が、
「なに怒ってんだよ」
そんな、何気無いだろう問い掛け。
本当に分からないとでも言いたげな口振りに、いや本当に分からないのだろうなんて。そう考えると何故こんなに追い掛け回された挙句、彼の不機嫌に付き合わされているのだろうとすら思えてくるのだから人間の思考回路や感情というのは面白い。
投げ掛けられた問いに、一気に押し寄せたのは呆れか落胆か失望か。それとも自分自身に馬鹿馬鹿しくなっただけなのかも知れないが。
深く吐き出した溜息は、宵闇に酷く響いた。
「盗んだ宝石には興味も無いなんて、酷い泥棒さん」
「...は、それってどういう...」
掴まれた腕を時計方向に素早く回し、腕をするりと抜く。
「好きな人が他の女の子とイチャイチャしてて、気分を害さない女なんて居ないと思うけど」
取り出したボストンのサングラスを掛けると同時に、四つ玉の要領で晒した球形の黄色い閃光弾四つを地面に叩き付ける。真夜中の市街地なんて関係ない。目に見えて慌てた様に口許を引き攣らせた彼を気に留める心算も無い儘「女心の勉強でもすれば?」と言い捨て、爆ぜた閃光に紛れて真上にワイヤー銃を撃ち出す。
勢い良く持ち上がった身体を中空に放りながら、反対の手に握ったもう一丁のワイヤー銃を適当なビルの側壁に撃ち当てて、ワイヤーを巻き取りながら振り子の要領で市街を離れる。飛び出した身体を何処ぞの中層ビルの屋上に着地させ、建物の隙間を飛び越えながら数棟を移動して振り返るも、背後は勿論四方に人影は無い。
簡単に手に入らないからこそ、惹かれるのだと言う。
美人でプロポーションが良くて、敵である事。それが男が女に手を伸ばしてしまう条件なのだと、何処かの誰かが言っていた。
それが男を説明する言葉なら、彼が私に惹かれる要件は揃っていないという事になる。そう思うと、あの年齢不詳の彼女の振る舞いは男を惹き付けるには最適なのだろう。
「私も見習おうかな...」
ボブの内巻きに纏まった毛先をふわふわと弄びながら零れた呟きは中々に深刻そうな響きを持っていて、内心自分でも驚いた。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時