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File.9-16 ページ25

ばさりと重い音を立てながら、野次馬の上で広がったスクリーンは、時計台へ結わえていた紐をキッドが撃ち切った事で壁から離れ、眼下の観客達を覆う様に被さっていく。



文字盤から上手くスクリーンへと移っていたらしいキッドに倣って、羽根を散らしながら翼を仕舞ってスクリーンの内側へと滑り込めば、楽しそうに悪戯っ子らしく笑う彼と目が合って、小さな声を鼓膜が捉えた。こんな瞬間に何だが、小さく笑い返して数十分前に告げた其を彼と同じ様に添えてみる。



真下に群がる群衆は、頭上の和やかさ等目には入っていない。



ダイヤモンドを散撒いた時に押し寄せた所為で人混みが増し、逃げ切れず転倒したり屈んだりする野次馬をクッションにして着地した直後、衣装を脱いでウィッグを被る。下敷きになった野次馬達に混ざってスクリーンから抜け出して、少し離れた場所で眼鏡を掛ければ黒咲夏月が出来上がった。



別に素顔でも構わないのだけど、此処が江古田駅前である以上、知人が居る可能性が高い。



可能性どころか、中森青子が居るのは確認済みだ。



扨、ここで問題がひとつ。このまま独りで帰宅するか、快斗を捜して一緒に戻るか。何方を選択した方が、自分の為なのかを見極めなければならない。実の所、工藤新一から逃れるプランを幾つも練るより至難の業であり、今のところ此手の難題での勝率は大して良くない。



未だに熱狂の中騒ぐ野次馬や、冷めやらぬ様子で周囲の人々と話している人々の手に握られたイミテーションダイヤが警察の照明やヘリコプターのライトでキラキラと光る中、端の方へ寄って腕組みしなから考える女は大分浮く。取り敢えず此処を出るか、と足を踏み出して群衆を割った先。



「オレ、黒羽快斗ってんだ!よろしくな!」



「快斗!」



選りに選って最悪なものに出会してしまうのだから、本当に私に運は味方してくれないらしい。



私服姿で相変わらずの眩しい笑顔を見せながら中森青子へと、青い薔薇を一輪差し出す快斗。何故か自己紹介をしている辺り、彼の思い出というのは彼女との邂逅の場だったのだろう。



初めての出会い、巡り合わせというのは誰だって大切にするものだ。



大切な幼馴染なら尚更。



正に青い薔薇に秘められた言葉の様に、素敵な思い出に花を咲かせる二人は、遠く輝いて微笑ましく。



すうっと、何かが落ちてきて何処かを冷やしていく様な感覚がしたと思った時には、息が止まっていたなんて気付かなくて。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時

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