File.9-15 ページ24
唯の硝子を削り出して千個の模造ダイヤを作るのが今回一番の苦行だった訳だが、ダイヤモンドを撒くという状況に野次馬が押し寄せ、広場は文字通りお祭り騒ぎ。
そんな中、時計台の屋根では無く文字盤の雨避けにと迫り出している部分に座る。仕舞わずの儘の翼は軽く畳んでヘリコプターからの風避けにして。
「も、模造品だと！？」
存外間近で聞こえた中森警部の声。時計台から文字盤へと出る為の小窓からでも覗いているのだろう。だとするとスクリーンの内側にいるキッドと対面しているのだろうが、そもそも何処かの誰かさんが発砲した其の所為で、スクリーンのウェイトバーが外れ掛かっている。
もう一箇所を破損させればウェイトバーは外れ、ヘリコプターの風に煽られたスクリーンは文字盤とキッドと中森警部を観客に晒してしまう事だろう。
「皆様へはイミテーションで大変申し訳無いのですが、是非今宵の記念にお持ち下さい。私と皆様との...お茶会の思い出に」
口元へ指を宛てながら首を傾けてみせれば、一斉に歓声が広がる。圧倒的に男性の太い声が多い所為で華やかさというより熱狂感の方が勝っているのは、まあ、仕方無いと諦める他無い。
そんな事は扨置き、問題は此方だ。
左側上空を飛ぶヘリコプターへ目を向ければ、銃握った工藤新一と視線が重なる。此方に銃口を向けてはいないので射殺される危険性は無さそうだが、スクリーンの方はあと一発で煽られ捲れ上がるだろう。模造品を撒いた後は彼と手早く退散する算段だったが、彼が翼を広げるのは厳しい。ヘリコプターが起こす風は、私は未だ良いがハンググライダーには大敵。かと言って、キッドを置去りにする心算等毛頭無い。
浮かぶプランは3つ。なんて考えながらヘリコプターで悠然と此方を見下ろす高校生へ、笑顔で手を振っていた時。
『オレが合図したら、バーを外してスクリーンを下から引け』
突然通信を再開させたイヤホンから、聞き慣れた声。
小声であるところからして中森警部へ聞こえない様に、という配慮だろう事から小さく「OK」と呟く。その直後に鼓膜を微かに擽った『Three...』のカウントダウンに合わせて、懐から取り出したトランプ銃を構える。
『Two...』
座っていた雨避けから飛び降りて、
『One...』
真横に迫ったウェイトバーの紐を撃ち抜く。
イヤホンから聞こえた二度のトランプ銃の音と同時に、翼を広げてスクリーンを中空へと引いた。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月11日 1時
