不思議の国の魔法使い《3》 (ページ23)

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File.9-14 ページ23

屋上のコンクリート製の手摺壁へ手を置き、双眼鏡で眺める。

時計台を囲む足場から噴き出した煙幕が文字盤を隠し、数秒を経て晴れた其処にスクリーンが降りて、秒針の消えた文字盤だけを投写する映写機が正常に作動している事を確認する。歓声と共に消え去った秒針は、あたかも盗まれた様に。

「またね、恋しい罪人さん」

『あ、ちょ...おいっ、』

今の今まで入れておいたイヤホンを切り、序に右耳の無線用は仕舞う。文字盤にスクリーンが降りた事で、彼は今頃は文字盤に暗号でも刻んでいる事だろう。後は辿り着いた警察に託し、あの巨大な時計から飛び立てば良い。

ただ、その前に私も私の仕事をしなければ。

黒いローブは其の儘に、人目に付かない黒い翼を広げる。特に勢いを付ける事も無く屋上から身を投げ、ばさりと羽搏いた其は漆黒の夜空へと身体を持ち上げた。時計台は凡そ110mとして、周囲を飛ぶヘリコプターは120-140m程度、かも知れない。となると飛び降りる高さは200m。100m地点で止まるとして、終端速度までは未だ遠いから強度的には大して問題は無さそうだ。

なんて考えながら、普段の数倍は重たい身体を上空まで持ち上げる。

四枚翼にしたから大丈夫だが、中々の重量にひっそりと背負っているモーターが燃え出しても不思議では無い。飛び回るヘリコプターを見下ろす位置で一度時計台へ目を向ける。大きく近付いた一機のヘリコプターの風に煽られてスクリーンが揺れ、ドアを開けたヘリコプターから銃を持った手が伸びていた。

一発の銃声が響くのと、広げていた翼を仕舞うのは全くの同時。

ばさばさと激しい音を立てるローブは、ヘリコプターの轟音に掻き消されていく。ヘリコプターの合間を縫って真っ直ぐ落ちる中、丁度文字盤の高さで煙幕を焚いて白い翼を広げながらローブを脱ぎ捨てる。

ポンッという軽やかな音と共に、大量に仕込んでいたパラシュート付きダイヤモンドを散撒き、ひらりと空中で羽搏きに合わせて緩やかに飛びながらキラキラと光る宝石を地上へと散らしていく。

「御機嫌よう、皆様。今宵は素敵な満月...細やかながら、私からフルムーンの贈り物をお客様へ」

ふわりとスカートが揺れればダイヤモンドが落ち、広場上空を旋回する様に羽搏く度に煌びやかな宝石が散る。

「何を驚いていらっしゃるんですか、オーナー。貴方が造った模造品と同じ形ですよ？」

眼下に見える膨よかな男へ、満面の笑みを添えて。

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