File.9-13 ページ22
探偵という生きものは、如何してこうも降って湧くのだろう。
『これは警察の仕事だ！部外者の君はそのヘリの中で大人しくしてろ！』
イヤホンなど無くても聞こえてきそうな程大きい怒鳴り声に、下げた音量を更に落とす。それと同時に『こちら中村！目標、通風口から出ようとしている模様！ど、どうしますか！？』なんて慌てた声がするが、彼は誰に指示を求めているのだろうか。
それに、
『Are you ready？』
「Of course,my lord」
彼の前で声音を晒してしまう意味を、彼は分かっていない。
見取り図からすれば彼の光点は館内から飛び出しているが、屹度通風出口の縁にでも立っているのだろうキッドの心地良い声が鼓膜を擽る。数回叩いたキーボードに反応して開かれた画面を確認していれば『こちら中村！通風口出口で目標を見失いました！』という焦った色に次いで中森警部が声を上げる。
『現在位置は？』
『えーっと、ここは...『四階の東側の廊下です！現在目標は警官の変装を解き、階段を下って逃走中！至急応援を...』
もう、どこまでが中村さんで何処からがキッドか分からない。彼のマイクからも警察無線からも同声量の声が聞こえてくる上に、声帯模写どころか声色拝借でしかない其の精巧さが際立っていて、思わず零れた笑みに頬を叩いて咳払いをひとつ。
と、感動している場合ではなく、キッドが無線を切った瞬間を狙ってEnterキーを押す。
『け、警部！停電です！』
『防犯カメラの映像も切れました！』
一瞬の間を置いて騒ぎ出した警官達に、一度上げたイヤホンの音量を再び下げてパソコンの画面を落とした。
「あと1分37秒...間に合う？」
『バーロ、誰に言ってんだよ』
当たり前の様に返ってくる声は自信に満ち溢れた色を咲かせていて、先程収めた笑みが込み上げて再び咳払いを落としながら立ち上がって時計台を眺める。
「快斗」
『ん？どした...？』
突然呼んだ名前に何を感じ取ったのか、仕事中に名を呼ぶ其に返る声は何処か少し幼く、普段の彼を彷彿とさせていく。いつも明るくて元気で少年っぽさを彩やかに感じるのに、いつも冷静で達観していて技量は一流。
そんな君が、
「大好きだよ、快斗」
心から恋しくて愛おしい、なんて。
『へ...』
今更だけど。
零時を告げる鐘の音が、彼の素っ頓狂な声を隠した。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月11日 1時
