File.9-12 ページ21
右耳のイヤホンから『ぼ、防火扉が閉まってスプリンクラーが...!』という警察官の声に応えるように、
『落ち着いて下さい。もう一度言いますが、直ちに時計台の出入り口を封鎖して下さい!此方の指示があるまで絶対に開けないように...』
聞き慣れた高校生の声が誰よりも明瞭でしっかりと響く。
「キッドー、逮捕されてなければ返事くださーい」
右と左のイヤホンを間違えないようにマイクを入れながら声を掛ければ『だぁれが捕まるかよ』と普段より低く不機嫌そうな返事が来る。僅かに反響している事から、無事に通風口へ潜り込んだらしい。
『今夜の警察、ヤケに冴えてねぇか?』
「だから魔人が居るって言われたでしょ。...あ、警官2人接近中」
もそもそと衣擦れと共に見取り図上を少しずつ移動する光点と、監視カメラに映る警察官の姿。そして『そのトイレの奥に設置されている通風口、ネジが外れていませんか?』とまるで見ていたかの様な探偵の声。
『いたぞ!奴だ!』
通風口の格子を外した警官が通風口内を覗いて来たのか、キッド側のイヤホンから警官の叫び声が響いてくる。
「残り16分43秒...早くしないと私出ちゃうよ」
『わあってますよ...。ったく、立派な魔人様なこった』
総重量何kgになるかは分からない格好でパソコンへと向かい合い、見取り図とカメラ映像を交互に見遣る。『目暮ぇー!やっぱりお前か!どーいうつもりだガキ連れてこんな所に!』という盛大な中森警部の声が響くイヤホンの音量を下げつつ、館内の照明と警察が監視しているだろう監視カメラに再度アクセスする。
「上がった四階の左奥から時計台の裏手に出られるから、後ろの警官撒いて。それと...照明とカメラが落ちるまで、後3分」
画面に表示された文字列を眺めながら遠くで響く群衆の声とヘリコプターの騒音に耳を傾ける。とは言え、イヤホン越しでは籠って聞こえ難く『警部さん!失礼ですが貴方と議論している時間はありません』なんて、相変わらずな正論男の声の方が幾分も大きく聞こえる。
『彼は今、犯行前に正体を暴かれ動揺を来たし...彼の計画の歯車は崩れ始めている』
随分な言われようだが、怪盗を舐めてはいけない。
『確保するには絶好のチャンス』
計画の歯車なんて、何枚も重ねて常にどれかが回るように幾つも用意しておくもの。
『だ、誰だ!何なんだお前は!?』
『工藤新一...探偵ですよ』
魔人にも、止められやしない。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時