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勿論、先約など存在しない。
だからといって唯のクラスメイトでしかない人様の誕生日パーティーに顔を出す程社交的でもない。そんな心情など知る由もない彼女へ「だからお詫びに」と眉を下げながら小さく笑を零して、閉じていた手を開く。
ポンッ！という軽快な破裂音と共に紙吹雪が弾け、色鮮やかなリボンを付けた小さなパラシュートがヒラヒラと教室を舞う。そんな小振りなパラシュートの先には飴やクッキーが入った小袋が結わえられており、ふわふわと机へ落ちていく。
「快斗みたいに素敵な魔法かどうかは分からないけど、私からも小さなプレゼントをどうぞ」
突然の華やかな其に目を輝かせてくれる彼女へ、手に残された小箱を差し出す。「貰って良いの！？」なんて輝く笑顔が眩しいが、なんて事は無い。兄がパリ限定のイヤリングを送り付けて来たものを、体良く横流ししているだけなのだから。
「誕生日プレゼントなんだから受け取って」
「うん！ありがとう夏月ちゃん！」
可愛らしく咲く笑顔と共に「快斗はパーティーでマジックだからね！」と要求しつつ重ねて嬉しそうな笑みを浮かべる辺り、矢張り女の子はこうであるべきかと学んでいれば、隣から「おい、勝手に決めてんじゃねえぞ」と不満気な声が聞こえた気がするが私の知った事では無い。
「何よ快斗！青子の誕生日だって言うのにお祝いしてくれないの！？」
如何せ、何だかんだ文句を言いつつ彼が優しいのには変わりないのだから。
怒っているような悲しんでいるような、何方にしろ悲嘆が混ざり合った幼馴染の表情に「しゃーねえな...」なんて溜息を吐きながら、何時の間に用意していたのやら、胸ポケットからするりと引き出した仕掛けを勢い良く抜いて大量の紙吹雪と紙リボンやら鳩やらを撒き散らすのだから、何が仕方ないんだか。
「今夜はオレのマジックで盛り上げてやろうじゃねえか！」
バサッと一気に華やかな小道具を散らしながら自信満々と宣言する辺り、満更でもないどころか楽しんでいるのだろうから、楽しそうな彼を喜ぶべきか、ひっそりと侵食してくる不愉快な感情に吐き気を催すべきなのか分かったものでは無い。
「うん！約束よ！」
そんな約束、飛んで行ってしまえば良いのに。
なんて、酷い女だ。
昔は他人のそんな遣り取りも関係性も大して興味は無かったのに、誰かと近しくなるのは矢張り心を弱くするらしい。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月11日 1時
