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File.9-11 ページ20

『ああ、キッドのシルクハットか...連絡は受けてるよ』



時計台内部の監視カメラと見取り図を並べて表示させながら、左耳のイヤホンから聞こえる刑事とキッドの会話に耳を傾ける。右耳からは『警視庁からの応援?そんなもの呼んだ覚えは無いぞ』なんて中森警部の声がして視覚と聴覚の渋滞に酔いそうにすらなる。



警察手帳と免許証を差し出して『泉水陽一27歳、6月2日生まれであります!』とスーツ姿の刑事に答えている制服警官は、恐らくキッドだろう。27歳にしては随分しっかりしている様に見えるが、それは普段の彼が幼顔である所為もあって泉水巡査が大人顔に見えるだけかも知れない。



『よーしご苦労!最上階で中森警部が御待ち兼ねだ!』



『はっ!』



細身の刑事が返却してきた警察手帳と免許証を泉水巡査が受け取ろうと手を伸ばす。が、手帳と免許証はサッと引かれてその手は空を掴む。そんな様子を横目に見ながら仕上げたものを仕舞える箇所に隠していく。袖に帽子の中、フリルの間と隠しつつ如何せ直前までローブのままなのだからと黒い袖にも入れておく。



『あ、そうだ...念の為に免許証番号を言ってみろ!』



『あ、はい、はい...』



作業の片隅で左耳を掠めた不可思議な其に、手が止まる。



免許証番号を人に尋ねる時等存在するだろうか。日本では一般的、な訳も無く、恐らくこの刑事の趣味でも無いだろう。今まで警察からこんな質問をされた試しは無い。となると、誰かさんの入れ知恵だとしか考えられない。



瞬間的に回る思考と同時に「待ってダメ!」なんて思っていた以上の声が屋上に響いたが、



『第628605524810号であります!』



一度開いた口から声を回収する事は不可能。



『え...?』



『は?.....げっ、』



監視カメラ映像とイヤホンから伝わってくる警察側の緊張感と、咋にやらかした顔を晒すキッド。思わず零れた溜息と「ばか...」と呟いた声は『か、か...怪盗キッドだ!』なんていう刑事の声に掻き消された。



「左に曲がった先のトイレ。奥にある通風口、昨日螺外しておいたから取り敢えず入ったら?」



『おいおい、何なんだよ今日の警察!』



カメラ上廊下を疾走するキッドを横目に手早くキーボードを叩き、時計台の防火システムに滑り込む。通常通電状態にある自動閉鎖装置の電源を故意に落とし、防火扉を一斉に閉める。



キッドがトイレに入った事を確認して、序に廊下のスプリンクラーも作動させた。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時

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