File.9-10 ページ19
聞くとは無しに鼓膜を擽る会話を流していれば『楽勝じゃねーか』なんてキッドの独り言らしき声がイヤホンを通して送られてくる。
『やっぱ白馬の野郎がいねぇとスムーズ過ぎて張り合いがねーな』
「私、あのボートルレ苦手」
パソコンが小さく鳴らす音に、画面へと目を向ける。丁度彼が時計台内部へ侵入した合図だったらしく、想定より2分程早い其に確かに張り合いは無い所為で緊張感に欠けるかと小さく肩を竦める。
と、その時パソコンが先程とは違う少しばかり甲高い音を鳴らし、画面には『Inattendu』の文字と共に警視庁航空隊運用のヘリコプター四機の機体記号と機種が一覧になって表示されているが、その内一番下に示されている機体が赤文字で記されている。事前に入手した警備情報と現状を比較して、その都度異なる箇所をこうして指し示してくれる優秀なパソコンが鳴いている原因は、ヘリコプターが予定より一機多いから。
ふと、朝の言葉が思い出された。
『...どうした？』
微かでも甲高く鳴いた電子音が聞こえたのか、それとも突然黙った私が気になったのか僅か神妙な声音で問い掛けてきた彼に「んー...」なんて返しながら数回キーボードを叩く。
「東の警視庁から光の魔人様到着、ってところ。多分ね」
警察から発信されている無線機を傍受している状況で、無線を拾う為にもう一方の耳へ別のイヤホンを差し入れる。正体不明とばかりに赤く表示されているヘリコプターから発信されているらしい警察無線は、誰だか分からない警察でも中森警部でも無く、聞き慣れた声の高校生。
何やら警察へ指示や助言を出しているらしいが、途中からの内容では誰へ何の話をしているのか定かではない。
東、が警視庁か米花町かは分からないが、成程『白き罪人』を滅ぼせるとしたら確かに彼なのだろう。類稀なる頭脳が最早魔人扱いされているのは、本人が知らなくて本当に良かった。
『魔人ねぇ...。光だか何だか知らねえが、お手並み拝見といこうじゃねえか』
「...、.....滅ぼされる前にロイヤルフラッシュ出してね」
淡々と警察を動かしている高校生探偵の声を遠くに聞きながら、着々と時計台を昇っていく光点を目で追う。
選りに選って工藤新一とは。
さあ、プランが幾つあっても足りなさそうだ。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月11日 1時
