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File.9-9 ページ18

𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ




群衆とも言う観客が犇めく土曜の夜。



「はいはい、こちらリデル家次女。ただ今盛大なキッドコールが始まりましたどーぞ」



片耳を塞ぎながら左耳のイヤフォンへ話し掛ける。



分かり易い日時の予告状を出した所為もあって、時計台の周囲は深夜近いというのにお祭りの様な賑やかさだ。普段は穏やかな駅前広場だと言うにも関わらず、今夜がそんな場所になっているお陰で規制線が張られパトカーと制服警官が並び立っている。



野次馬を諌める為に配置されていると言っても過言では無い、そんな警官達を遥か下に見下ろしたビルの上。平面上の直線距離にして数十mは離れているだろう高層ビルの屋上に、黒いローブを着てフードを被った咋な不審者の出で立ちで座り込みパソコンの画面を見詰める。映されているのは時計台の見取り図と周辺地図、キッドが付けている発信機の光点、警備情報と警察が設置している監視カメラの映像。



予告時間から残り30分となった瞬間に始まったキッドコールは、警察の無線を傍受しているイヤホン越しにでも此処まで聞こえてくるのだから恐ろしい。



『こちら泉水陽一、アリスコールで鼓膜が裂けそうですどーぞ』



全く知らない誰かの声がイヤホンから伝わってくるが、内容と口調は明らかにキッドの其。彼の小型イヤホンのマイクからは今夜の泥棒を交互に呼ぶ観客の声が大々的に入り込んでくる。パソコン画面に刻まれた時間を確認しながら「予告まで25分14秒、早いところ入っちゃって」と伝えれば『りょーかい』なんて地声の応えが返ってきた。



さて、彼が時計台に侵入している間に此方も仕上げをしなければ。



今現在の風向きや風速を読んで、用意したものから最適なものを選ぶ。大きさや厚さを間違えると雹より凶悪で隕石に匹敵する威力を誇る可能性まであるからこそ、慎重に。



とは言え、悠長にしている時間も無いので急がなければならないのが、大変というか面倒というか。



『なにっ!?パトロール中にキッドらしき不審な男を見掛けた!?』



『はい!この様な怪しげな帽子を落として立ち去りました!』



イヤホンから聞こえてくる泉水陽一と警官の会話を聞きながら、鼻歌混じりに手元の作業とパソコンの操作を並行させていく。キッドには勿論鼻歌は聞こえているだろうが、文句を言える状況では無いのを良い事に、ふと浮かんだ其を口遊む。



華やかな舞台には、その何倍もの地味な作業が付きものだ。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時

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