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File.9-8 ページ17

魔女の微笑み、というものは初めてお目に掛かったけれど。



決して安堵出来るものでは無い笑顔で「貴女を説いた予言よ」と付け足す彼女は、更に距離を詰めて眼前に迫る。額か鼻先が触れ合っても不思議では無い距離に上半身を後方へ引くが、体勢にも限界がある。



「狼が愛でる昇藤に関しては聞かないであげるけど...貴女が彼の八咫烏である以上、失態は許されなくてよ?」



一層笑みを深めながら、得体の知れない圧を掛けてくる魔女様に只管と苦笑いをして流しておく。予言だか預言だかは知らないが、彼女が邪神とか言う何者かから託された言葉は紛い物では無いらしい。「聞かないであげる」の言葉の奥に如何だけの真実を内包しているのか等知りたくもない代わりに、彼女が魔女だと言うのも虚偽では無いと教えられるのだから心中複雑ではある。



「どうせ忠告しても止めないのでしょうから、深くは言わないけど...今夜は気を付ける事ね」



此方が何も言わずとも構わないのか、漸く身体を離した彼女は名残惜しさ等欠片も無く踵を返して自分の席へと戻っていく。気付けば青子ちゃんも恵子ちゃんと別の話題で話しているらしく、此方に見向きもしていない。



「...何か、色々なものが吸い取られた気がする」



「だから苦手なんだよ、あの女」



広げた儘の新聞を眺めているだけか、将亦きちんと読んでいるのか、視線を活字に向けた儘小さく呟く快斗は、次いで深々と溜息を吐いて新聞を畳んで了う。



「神様の予言だってよ、どうする?」



信じている訳では無いが、信用していない訳でも無い。そんな言葉で滅ぼされる、と言われた罪人達。如何するも何も無いが仕事中気になれば厄介だ。それに『滅ぼさん』が捕まるのか殺されるのか何なのかが分からない以上、警戒すべきかも定かでは無い。



「どう、ったってな...。まあオメーがいれば大丈夫、って事だろ」



畳んだ新聞を引き出しに仕舞いながら「何たって導きの神様だしな」と冗談めいて笑う彼は、矢張り相変わらずの楽観主義らしい。



まあ、悲観しても仕方ない上に神出鬼没の大怪盗だと言う話だから何とかの魔人に如何にかされても何とかなるだろう。それに、だ。邪神とか言う神様が誰を『魔人』だと称しているのかも気になる以上、行かない訳にはいかない。



「迷子になっても知らないからね」



辿り着くのは不思議の国か、鏡の国か。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時

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