File.9-7 ページ16
「どうせ無くなっちゃうならキッド達に盗られた方が良い、ってみんな言ってたし」
「ダメなものはダメなの!」
なんて、広がった筈のコミュニティは分裂したらしく、青子ちゃんは恵子ちゃんとの会話に流れていく。漸く落ち着いたかに思えた中、ふありと零れた欠伸を受け止めていれば「ねえ、どういうつもりか知らないけど...」と声を潜めながら腰を折った紅子ちゃんが間近で口を開き始める。
「今回の仕事、手を引いた方が良くってよ」
一応隠匿しておく心算は有るらしく、周囲を若干気にしながら手を添えて内緒話をする様に忠告してくれる辺り彼女も優しいのだが、学校の、而も教室の中で始める会話では無い。
「だーかーらー、言ってんだろ?オレはキッドじゃねえって」
まあ、然う答える他無い。が、彼女もそんな在り来りで聞き飽きた応えには動じない上に気にもしない。
「時告ぐる古き塔 二万の鐘を歌う時...光の魔人 東の空より飛来し、白き罪人を滅ぼさん...」
真剣な表情で告げられた其。快斗は「また何かのくだらねぇ占いか?」なんて相手にする心算は無いらしいが、魔女だか魔法使いだからしい彼女が言うのだからそれなりの信憑性はあると思った方が良いのだろう。其の儘の意味だとすると、時計台が二万回目の鐘を撞く時、光の魔人が東から飛んで来て白い犯罪者を滅ぼす、らしい。
「占いじゃないわ、邪神ルシュファーが私に告げた予言よ」
快斗の肩に手を置きながら堂々と言ってくる紅子ちゃんは、彼女の素性を知らなければ少し心配になるところだが、今の問題は其処では無い。
「あの時計台が二万回目の鐘を鳴らす日が、丁度貴方達が予告した夜...。信じるか信じないかは貴方達の勝手だけどね」
何者かは分からないが、光の魔人、とは恐ろしい。
それにしても、
「紅子ちゃんってキッドが好きなんだと思ってた」
彼女が『彼等』と言うとは実に意外だ。
快斗にチョコレートを断られた所為か、それとも自分に靡かないからか、兎も角彼女が執着しているのは快斗だとばかり思っていたのに。彼等が好き、とは嬉しくもない上に恐ろしさすら感じる。なんて考えながら口を衝いた声に、視線を向けてきた紅子ちゃんは正に妖艶とも言うべき笑顔を称えながら、肩に手を付いて距離を埋めてくる。
「孤狼愛でし昇藤 白き翼纏う時...手を取る罪人導きて 悲願の光指し示さん」
緩やかな笑みの儘、流れる様に告げられた声は確りと。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時