File.9-6 ページ15
そんな、何とも言えない空気の中。
「あら...私は彼等のそういうとこ好きよ?」
そう言って近付いて来たのは、クラスメイトの小泉紅子。「悪戯好きの子どもみたいで可愛いじゃない」なんて言いながら意味有りげな視線を向けてくるのだから、寧ろこれで気付かない青子ちゃんも如何かと思っても仕方無い。
「あ、紅子ちゃん...騙されちゃ駄目!彼奴らはどう転んでも犯罪者!悪者なんだから!」
救いの手を差し伸べてくれたかに思われた紅子ちゃんの言葉も、寧ろ青子ちゃんには逆効果。まあ紅子ちゃんも、空気感を如何にかしようと言うより、思っている事を言っただけなのだろうけれど。
「それにニュースで観たでしょ?次の獲物!」
「ああ...駅前の古い時計台だったかしら...」
間近で始まった彼女たちの遣り取りを聞きながら快斗の机に組んだ腕を置いて、素知らぬ顔で新聞に目を落とし始めた彼と同じ様に文字を追う。政治やら経済やら事件を差し置いて一面を飾る怪盗キッドの記事と写真は、犯罪者を取り上げたというよりアイドルの来日報道並みの力の入れようだ。
「そうよ!あれはこの町のみんなの物なのよ!なのにその時計を盗むなんて酷いと思わない?」
「え、ええ...そうね」
あの紅子ちゃんが圧されるとは、青子ちゃんも中々のものだ。と思っていれば、急に視線を下げて眉を落とした彼女は何やら思うことがあるらしく「それに彼処は、あの時計台は...」なんて尻窄みに小さく呟いている。
予想ではあったが、快斗の言う思い出というのは矢張り彼女に纏わるものなのだろう。
然う思うと途端に週末の仕事を放棄したくなるのが不思議だが、人間というものは然ういう生きものだと知った以上首を傾げるものでも無い。取り敢えず八つ当たりの憂さ晴らしにと快斗の頬を思い切り抓れば「いててててっ!」なんて声が返ってくる。
「んだよ!」
「べっつにー?」
ぱっと勢い良く引っ張りながら離した頬は赤く色付き、其処を擦る快斗は半眼で此方を睨んで来るが知ったことでは無い。小さく鼻を鳴らして顔を逸らせば「ったく...」なんて小さく零しただけで深追いする心算は無いらしい。
「でもあの時計台、もうすぐ移築されちゃうって聞いたよ?何処かのテーマパークのシンボルにするって...」
いつの間に会話の輪が広がったのか、青子ちゃんの後ろから声を上げたのは同じくクラスメイトの桃井恵子。薄い茶髪をツインテールに纏めた眼鏡の女の子。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時