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File.9-5 ページ14

「あんな泥棒!青子ん中じゃねー!最低人間街道ダントツ疾走まっしぐらよー!」



朝から元気なのは良い事だが、細かく破いた新聞を放り投げる程に腹立たしさを抱えているとは、精神健康的に宜しくない。



粉々に破り捨てられた新聞は紙吹雪となって頭上から降り注ぎ、相変わらずの不機嫌さを隠しもしない青子ちゃんの可愛らしい不貞腐れ顔の前をひらひらと舞っていく。



「まあ、そう怒るなよ!」



そんな大嵐の彼女に一瞬吃驚と目を見開くも、直ぐ様何やらニヤニヤと笑みを浮かべた快斗は舞う紙片を手早く回収しなから口を開く。



「いくらあの泥棒達に、オメーの親父のヘボ警部が毎回毎回やられるって言ったって...しゃーねえだろ?」



ひらりと目の前を掠めて行く新聞だった其を数枚受け止め、何やら集めているらしい快斗へ渡す。「お、サンキュ」と受け取っていく彼の手の中には握り込める程度の紙片が集まっており、纏めた其を余す事無く拳の中へ収めていく。意味有りげで勿体振った様に「なんたって奴等は...」なんて神妙な口振りで言ってみせて、



「確保不能の大怪盗なんだからよ!」



紙片が恰も復元したかの様に、ばさりと新聞を広げて満面の笑みを浮かべながら楽しそうに言って退ける。



「まあ、あの警部じゃスターウォーズが完結しても逮捕は無理だろうぜ」



開いた新聞に視線を落としながら嫌味を重ねていく快斗は、他人を煽るのが上手らしい。唐突に始まった手品に一瞬驚いた彼女だったが、重ね重ねの其に再び不機嫌そうに目を細めてしまう。



「なにさ!キッド達と同じでちょっと手品が出来るからって、いつも彼奴らの肩持っちゃって...。あんなの、盗んだものを捨てたり、後でこっそり返したりしてる、善人ぶった愉快犯じゃない!」



中々の辛辣な言葉だ。



思わず零れた苦笑に「まあまあ...」なんて在り来りで意味の無い言葉を添えてみても、既にとっくの昔から怒りに満ちている彼女を如何にか宥める事等不可能。



「夏月ちゃんも!快斗に唆されたからって、あんな泥棒達の味方なんかしちゃ駄目よ!犯罪は犯罪!許しちゃダメなんだから!」



肩を掴んで一生懸命力説してくる彼女は至極真面目で、一層言っていることは正しく清い。のだが、中森警部を貶しているのも、彼女が必死に説得しようとしているのも、何方も其の噂の犯罪者なのだから手に負えない。



最早苦笑いするしかないのだから、世間の狭さというのは恐ろしい。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時

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