File.9-4 ページ13
𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ
月が満ちる土曜の夜
零時の鐘と共に
貴方の懐より
天高き時計を
頂きに参上する
怪盗キッド
十五を謳う青い夜
天撞く二人の音色と共に
貴殿の企みより
町を眺めし時護りを
頂きに参ります
Carroll Notes
時計台はテーマパークのシンボルとして移築を控えた身。
そんな場所に侵入するなんて、高校に通うより容易い。工事現場の作業着を拝借して紛れ、組み上げられた足場を頼りに発煙機や映写機を仕掛けたのが昨日の話。そして深夜に二人がかりで運び込んだ巨大なスクリーンを設置し終えたのが、数時間前。
「お?キッドに魅了された女性ファン急増中...」
今朝も相変わらず過ぎる光景として、教室内で快斗が朝刊を広げる。そんな彼が小さく零した声は、前の席に此方も相変わらず横向きに座る私にも勿論聞こえてくる。今朝は本では無くスマートフォンを眺めていたから素早くネットニュースを開き、先程見付けた記事を開く。
「男の子はキッドよりアリスの方が好きだってよ?」
広げられた新聞の折り目に沿って破り、出来た隙間から携帯端末を快斗に見せる。『華麗なる少女に魅せられた男性、驚異の支持率』なんてタイトルを掲げた記事には、有名な児童小説を抱き締める男性や登場人物達の服装を真似た男達の写真が貼られているが、男性達の楽しそうな表情に反比例して何処か恐ろしさすら感じる。
「けっ、アリスが野郎共なんかに振り向くかよ」
「.....ふぅん、ヤキモチ妬かないんだ」
裂かれた新聞を読む心算は無いのか、重ねて畳み始める彼に「私は嫌なのに」と頬を膨らませてみれば、凝視めた先の頬に朱が差して直ぐ様視線が外される。「そ、そりゃオレだって...」だとか何とかぶつぶつ言い始めるが、正直何も聞こえない。というより聞こえない位の声量なのは屹度態となのだろう。
「キッドが女の子に鼻の下伸ばしてたら、その内アリスに嫌われちゃうかもね」
「んな事する訳ねえだろっ」
彼の机に頬杖を付いて目を細め、恰も自分の事の様に慌て始める快斗へ意地悪に笑っていれば、突然隣から伸びてきた手が机の上で畳まれていた新聞を攫って行く。
「え?」
「...ん?」
唐突に現れた第三者へ目を向けた私達のすぐ目の前。今盗まれた新聞は盛大な音を立てながら次々に破られ、
「なにがファン急増中よ、なぁにが支持率よ...」
なんて小さく呟いた中森青子の手の中で紙吹雪の様に紙片へと姿を変えていく。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時