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File.9-3 ページ12

パンナコッタに、ホイップクリームも乗せた其をソファまで運ぶ。



相変わらずパソコンを眺めながらココアを啜る彼の隣に座ってひとつ差し出せば「お、美味そう!」なんて素直な声が帰ってくる。渡したスプーンで白く揺れる其を掬った、のに。



「んで?どっかの誰かさんと水族館デート行くのかよ」



冷たいスイーツを手に、それを食べるより先に目を細めて此方を覗き込んできた快斗は、至極不機嫌。



デートという単語な上に、水族館という場所なだけに機嫌を傾けてしまったらしい彼の口に、掬った白いスイーツを押し込む。不機嫌さと甘いものという両極端さに眉を寄せる彼に小さく笑いながら「行かないよ」と返して、自分も一口運ぶ。



「折角のデートなのに、邪魔したら悪いし」



「...んー?」



もぐもぐと咀嚼しながら、不思議そうに首を傾げる快斗と同じ方向へ首を傾げて「女の子って難しいでしょ」なんて。



「本当は好きな人と二人で行きたいのに、『そんなんじゃない』感じを出してみたり、他の女友達も誘ったり...女心って複雑よね」



生憎私には無い部分だが、男の子という生きものはそういう女の子が良いのだろうか。行きたいなら誘えば良いし、二人が良いなら二人きりが良いと言えば良いのに。



でもまあ、



「最近は、そういう感覚...分からなくは無いけど」



断られたら嫌だとか、少し恥ずかしいとか。然ういった感情を理解出来ない事も無い。それを教えてくれた張本人は不思議そうに首を傾げているのだけれど。



「快斗は私が誘ったら一緒に水族館行ってくれる?」



「...へ?あ、あー...いや、まあ.....」



不思議な事に彼は魚が苦手だ。



折角のデートスポットだというのに残念な事だが、まあ私も好き好んで水族館に唯々遊びに行きたいという訳でも無い。だから別に構わないのだけど、生きているかに関わらず魚が苦手だとなると料理の幅も限られてくる事だけが困る。



明らかに狼狽え始める彼へ「冗談だよ」なんて笑ってみせて、暫く放置されているパソコンの画面へ再び視線を戻す。



「水族館デートは兎も角、こっちの共同作業をどうにかしないとね」



「オ、オレだって...水族館じゃなきゃデートくらい...」



「はいはい、じゃあ時計台デートのプラン考えてよ」



一体何と張り合っているんだか不明だが、ぶつぶつと不貞腐れ始める彼へパソコンを向けてココアを傾ける。



時計を盗む、なんて大舞台はデートよりもスリリングに。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時

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