File.9-2 ページ11
「今度の日曜日ね、空いてたら行くよ」
一応だが、仕事の予定は土曜日。空いてない訳では無いけれど、何が楽しくて高校生探偵と、元刑事である探偵の娘というカップルのデートに着いて行かなければならないのやら。
『出たわね、蛍の『空いてたら』詐欺！そんな事言って空けてくれてた事なんて無いじゃない！』
「あー...そうだっけ？いや、一回くらいあるって、たぶん...」
本当に一回も無いのだけど。
そもそも新ちゃん蘭ちゃんの水族館デートに、同じ幼馴染とは言え園ちゃんが行く訳が無い。急な予定か体調不良か、兎も角彼女なら何かしらの理由を付けて二人だけで水族館に行かせる気だろう。そんな彼女の努力を、私が潰す訳には行かない上に、私自身彼等のデートに着いて行く心算も無い。
『無いわよ一回も！私だって蛍と遊びに行きたいのに、いっつも新一ばっかりじゃない！』
「.....あれは殺人現場に拉致されてるだけなんだけど」
彼は私を助手か執事だとでも思っているのか、聞き込みや証拠探しからトリックの助手に関係者の身辺調査まで何でもやらせてくる。それを羨ましいと思ってくれているなら助けて欲しいものだ。
ふと横目に見たパソコン画面の中、時計台の移築工事予定の記事を眺める。
そう、快斗の私情に関わる問題というのがこれだ。如何やらこの時計台は思い出の場所らしく、願わくば移築を中止にしてしまいたい。そして、時計台側の問題は、埋め込まれているダイヤモンドが既に存在していないという事。いや、正確に言うとイミテーションに擦り替えられている。
正直、盗みに行く理由は無い。
が、狙いはダイヤモンドでは無いのだから問題は無いのかも知れない。
『...ちょっと！蛍聞いてるの！？』
「ん？勿論聞いてるよ、映画の帰りに暴走した新ちゃんが強盗未遂犯捕まえた話でしょ。」
『違うわよ！映画の帰りに新一に置いて行かれた、って話！』
映画は二人で一緒に行けるのに、水族館には理由が必要だとは女心とは複雑なものだ。「一緒じゃん...」なんて返しながら、そろそろかと立ち上がる。冷蔵庫を開け、ガラス容器ごと冷やしておいたパンナコッタを取り出してイチゴジャムを掛けて『全く...蛍も新一に似て私の話なんて聞いてくれないんだから』と耳元で始まる説教を聞き流す。
『とにかく、今度の日曜日に米花水族館だからね！』
「はぁい」
軽く返した応えに「じゃあまたね」と添えて電話を切る。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 28人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年2月11日 1時
