File.8 ブルーバースデー ページ1
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「そーいやよぉ、」
なんて出だしで始まった快斗の話。
相変わらず早朝から訪れた彼は手早く仕上げたクロックムッシュをテーブルに乗せながら、小さく零れた欠伸を反対の手で受け止めている。目の前で湯気を立てる其に手を合わせて、向かいに座る彼へ目を向けた。
「昨日の帰り、公衆電話から変な電話が掛かって来たんだよ。オレ...っつうか、怪盗キッド宛に」
同様に手を合わせて自作のクロックムッシュへ手を伸ばす彼から告げられた其に、一体何の話だと首を傾げる。確か昨日は怪盗キッドの予告日だった筈だが、どんなタイミングで公衆電話からの連絡に応答する羽目になったのやら。
「...新手の都市伝説の話?」
手で持ち上げるには具沢山のクロックムッシュをナイフとフォークで切り分けながら訊ねた其は「ちげぇよ」と呆れ混じりに否定される。
「『今回は我々の求めている宝石では無かったので見逃してやるが、また同じ事を繰り返せば命は無いぞ』...ってな。A、何か知っ...、.....おい、どうした?」
電話口の声を真似したのだろう其に、手が止まる。
音質や回線やらで多少の差異は生まれるだろうが、彼の耳と声帯模写のレベルの高さは身を持って知っている。だからこそ、昨日掛かって来たという電話の相手の声が、聞いた事のあるものだと確信を持てる。そして、これが危機か好機かが分からない。
「『宝石には手を出すなと前にも言った筈だ』...でしょ」
握ったナイフとフォークを置いて、背凭れに身体を預ける。向かいで驚愕と目を見張る彼を見遣りながら、扨如何出たものかと思案してみても、私だけで結論を出せるものでも無いかと頭を抱えるという堂々巡り。
ただ一つ言えるのは、
「快斗、泥棒の本気とマジシャンの腕の見せ所だからね」
気を抜けば死ぬかも知れないという事。
未だ掴めないらしく目を瞬かせる彼に、立てた小指を差し出す。詳細を語る心算は無いと悟ったのか、深く問い質してくる事もしない儘困惑と共に小指を絡めながら「お、おう...?」なんて返事を寄越す快斗と昔ながらの約束を交わす。
彼が事の真相を知るのは、屹度あと少し。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年2月11日 1時