File.4-10 ページ10
何か知ってる、訳が無い。
今の今まで国立博物館で警官達と鬼ごっこをしていたのだから。中森警部も、そんな事は分かっている筈なのに訊ねてくるのは、本当に知っているかを聞きたい訳では無くて一種の情報提供の様なもの。暗に何とかしてくれ、と言っているのと同じ。
「そうですか...。白い罪人に、天使の祝福が在れば良いのですが」
先程盗んで来た純金の像を掲げて月明かりに当てる。
天使の恩恵と慈悲を願うかのように彼女を見上げつつ、ホワイト･サファイアを月影に翳してみても深紅の秘密は姿を見せない。如何やら天使と言えど不老不死には程遠いらしい。そうなってくるとこの、重くて冷たい純金の像に用は無い。放り捨てて、何が起きているかは分からないがキッドを探し出した方が何倍も得策。
下ろした天使を抱え直しながら膝を折る。身体の傾きと当たる風を受けて白い翼が一度大きく羽搏いて、降り始めていた雪が舞った。
「警部、彼女をお願いしても構いませんか？」
「あ、ああ...」
ふわりと屈んだ先の眼下にいる中森警部へ天使像を差し出す。が、勿論届く訳も無く、数m下の警部へと向かって手を離せば「おわっ！」なんて慌てた声を上げながら純金像を受け取ってくれる。時価幾らかは知らないが、安くない事は確かだ。落とす訳が無い。
「それでは皆様、雪降る夜に風邪等召されません様...」
立ち上がりながらスカートとポンチョを一纏めに軽く持ち上げて頭を下げる。漸く身軽になった状況に心中安堵しながら、下げた頭を一度持ち上げて柔らかく笑みを携え、キャノピーから地上へ倒れ込む様に身体を預ける。ハンググライダーと違って便利な部分は、離陸必要高度が低くて済むところだ。
地面を擦るかと思ったが、辛うじて接地を免れつつ大きく羽搏く。警官達に飛び乗って来られれば回避の仕様が無い程の低空だったが、今の中森警部にその心算は無いらしい。一度の翼動で数mの高度を確保して高く飛び上がった先、暗い空を見回してみてもハンググライダーの先すら見当たらない。
中空で仕事用の端末を取り出してみる。
彼が率先して入れてきた位置情報を、彼より先に活用する羽目になるとは思わなかったけど。直線距離にして1�卍�の一点に留まっているのか、携帯端末を落としているのか。将亦死んでいるのか。
歩けば20分の距離だが飛べば数分。
その先でどんな彼と逢う事になるのやら。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月27日 11時
