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File.4-9 ページ9

顔面が凍傷になってもおかしくない。



そんな絶望的な考えを片隅に、そう言えばキッドはもう終わらせただろうかと考えて、予告現場だった美術館へ立ち寄ってみる。未だパトカーが集まる美術館は、然し驚く程に静まり返って怪盗キッドの犯行を思わせる雰囲気はない。



逮捕されたのか、だなんて最悪の想像に、美術館周囲を暫く旋回して様子を見てみる。



パトカーは無数に停車しているが動く気配は無く、警官達も走り回ったり騒ぎ立てる者もいない。いよいよ珍しいなと首を傾げる事暫く。逮捕されている訳では無さそうだから良いか、と思い始めた時、エントランスから出てきた中森警部が不意に顔を持ち上げた所為で視線が重なる。



「アリス...!」



拙い、とは思わなくも無いが、既に中空に居る身としては心配する事でも無いかと考え直す。そんな事よりも気になったのは、追い掛けてくるでも騒ぎ出すでも無く、何処か深刻そうな表情で此方を見上げ続けている警部の様子。



なるほど、雰囲気がおかしいのは中森警部があんな状態だからか。と納得はいくが、何故気落ちした様な状況なのかは分からない。



何かを言いたさそうな警部に普段とは違う何かを感じて、くるりと身体を回しながら外れていたフードを被り直し、緩りと滑空してキャノピーに足を着ける。如何せ直ぐにまた飛び立つのだからと白羽は其の儘に軽く畳んでおくだけに留めて。



「こんばんは警部、今宵は随分と静かな夜ですね」



美術館が大きいだけあって、キャノピーと言えど5m程度の高さがあり、警部の元気の無さも相俟って世間話を始めても捕まりそうな気配は無い。



「私よりキッドに目移りなさった筈ですが、次は私に浮気ですか?」



両手で天使を抱え直しながら緩慢に首を傾げてみせるが、中森警部は相変わらず深刻な表情を貼り付けた儘。



「キッドが額から血を流しながら消えた...」



重々しく開かれた口から紡がれた、声のトーンと違わぬ重大な内容に返す言葉は何が適切か考えてみても分からない。警部がそう言うのなら事実なのだろうし、口振りからして誰かに狙撃された訳でも警察が仕組んだ罠で負傷した訳でも無いのだろう。



「あの叫び声は尋常では無かった...アリス、何か知らんか?」



海外の警察なら、弱ってる今が好機だと追い掛け回していそうな状況だが、中森警部は本気で心配してくれているらしい。



犯罪者にも情を傾けるとは、日本人は酷くお人好しだ。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時

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