検索窓
今日:23 hit、昨日:323 hit、合計:27,777 hit

File.4-8 ページ8

ワイヤーが絡まった所為で揺れたシャンデリアは、人間ひとりが下がったところで千切れる様な脆い構造では無さそうで、下階で目を覚まし始めた警官達に掴まれない様ワイヤーをある程度巻き取りながら、乗り上げた手摺りから身を躍らせる。



一気に掛かった荷重にシャンデリアのガラス細工が甲高い音を立てるが、天井から崩れる事無く耐えてくれている。



今し方まで居たキャットウォークに残して来た警官の騒がしい声を背後に聞きながら振り子宜しく反対側へと移る中、右手のワイヤー銃を其の儘に天使を脚に挟んで空いた左手にダーツ銃を握り、キャットウォークの上方にある窓ガラスへと向けて一矢を放つ。



特製に作ったステンレスティップは最早スティレット並であり、窓ガラスを割る等容易い。



キャットウォークより遥かに高い其処へ勢いを付け、左手で純金の彼女を抱え直す。タイミングを見計らって外したワイヤー銃を仕舞いながら浮いた身体の均衡を取って、外界への口を開けた窓枠に手を掛ければ、付いた勢いが失速する暇も無く窓から身体が吐き出されて暗闇に投げ出された。



冬の夜。暗闇より深い黒を纏う其処に、薄い水色のスカートと雪を思わせる柔らかいファーが舞う。



ふわりと開いた純白の翼から幾枚の羽根が散り、緩やかに地面へと踊っていく。



夜風に煽られて翻ったフードが流れ、腰まである薄く淡いプラチナブロンドが夜に咲いた。



「さぁむ...」



細いゴールドフレームのラウンド眼鏡の奥で寒さに細められる双眸も、季節に文句を言う声も。誰にも見えず誰の耳にも届かない。



抱えた純金が外気に晒されて冷たくなっていくという拷問に近い状況に、放り投げても仕方無いのではないか、なんて窃盗より質の悪い考えが浮かんでくる。金の熱伝導率を舐めていた訳では無いが、この寒空の下を飛翔するという苦行の前では想像以上に寒いし冷たい。



地上を歩くのとは訳が違う。鳥が全身羽毛で埋め尽くされている理由のひとつは絶対寒さ対策だと思わずにはいられない。



思わず零れた溜息は白く、見上げた漆黒の天井には白銀の綿が舞い始めていた。






.

File.4-9→←File.4-7



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (24 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
58人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。