File.4-7 ページ7
何方にせよ抱えるしかないかという結論に至った直後、僅かに開いた儘の扉から覗いてきた警官が「何者だ！？」だなんて面白い事を叫び出す。
貴方達は誰を取り締まる心算で此処に居るんだと思いながら、見回りの警官らしき彼が無線機で応援を呼んでいる光景に思案する事数秒。取り出した銃で無線機に狙いを定め発砲すれば、飛び出すのは弾でもトランプでも無く、ティップからフライトまで白で統一されたダーツ。ステンレス製のティップは無線機を粉砕して壁へ突き刺さり、金色の細い模様が刻まれたスリム式のフライトが衝撃に震える。
「今宵はお客様は多くない方が、彼女も喜びますよ」
追い掛け回してくる人数は少ない方が天使を振り回さずに済む。
柔らかく微笑みながら、警官の制服を剥ぎ取る。二月とは言え今日はまだ冷えるからと選んだ衣装は、足首まで隠す水色のフリルワンピースにレースの多いペチコート、同じ色のロングポンチョはスカートの裾近くまでを覆い、フードと袖と裾を白いファーで飾って冬らしさを彩っている。
アーガイル柄と黒いリボンが揺れるスカートとポンチョを翻して空の展示ケースへと飛び乗り、普段のハットの代わりに被ったフードが脱げない様に気を付けながらワイヤー銃をキャットウォークへと放つ。
「待てアリス！」
「逃がすな！第三班に応援を！」
日本警察の素晴らしいところは統制が取れているところだ。
手摺りに絡まったワイヤーを巻き取って上階へと登り切るより早く、上で待機していたらしい警官がキャットウォークへと流れ込んでくる。勢い余って手摺りから落ちそうになっている警官達を一瞬心配しつつ、上がった手摺りを跳ねるように駆けて追手を躱して行く。
生憎今夜のパートナーは400gを越えるだろう質量の持ち主。余り長引かせる心算は勿論無い。
角で手摺りを割ってくる柱に腕を掛け、遠心力で身体を回して通路側へと降りる。扨何処から外に出るかと周囲を見回していれば、数m先の扉が推し開かれて新たな警官達が雪崩込んでくる所為で、新たな問題が増えて思わず溜息が漏れた。
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら突っ込んで来る警官と、背後から押し寄せて来る警官。
再び手摺りへと飛び乗った視線の先。シャンデリアへ撃ち込んだワイヤー銃の先は、照明よりデザイン性を優先させた其を揺らしながら僅かに此方へと傾けさせる。
無数のガラス細工が、涼やかな音を鳴らした。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月27日 11時
