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File.7-9 ページ42

何だか躱してばかりいるのも申し訳無くなる様な。



言い方は強めだが、彼の事を本当に心配してくれているのは伝わってくるから、彼女の不器用な優しさを無視するのは気が引けてくる。



とは言え、彼の意向を勝手に覆す訳にもいかないから。



「アリス・リデルは好奇心旺盛だからね。気に入ったものは手放さないから大丈夫だと思うけど」



緩く笑みを浮かべながら指を鳴らせば、取り上げられた儘だった小説が小さな煙幕と共に手元に戻る。それと同時に、驚いた表情を見せる彼女の手には可愛らしい赤目の兎の縫いぐるみ。



「.....此処は不思議の国では無いのよ。迷子にならないで頂戴」



唐突に手元に現れた縫いぐるみに吃驚しないのは、本物の魔法を知っているからか。魔法と比較してしまえば奇術等ただの瞞し。渡された其の縫いぐるみを放り出すでも無く受け取って両腕に抱き締めた彼女に何かを返すでも無く、小さく笑みを零しながら手を振る。



最早追求する気も失せたらしい彼女は溜息を残して踵を返す。既に授業も始まっている中、教室に戻るのか如何かは分からない彼女の背を見送っていれば扉が閉まって、朝の屋上に静寂が戻った。



「...ねえ、もう少し優しくしてあげたら?」



「.....、...苦手なんだよな、あの女」



始終起きていた筈の快斗は寝返りを打ちながら溜息混じりに、変わらぬ感想を漏らす。



優しさが不器用だが、良い子に見えるのに本当に何が嫌なんだか。



取り敢えず彼女とも約束した事だし、万が一に備えて今夜の打ち合わせといこうか。下で行われている授業を無視して朝から学校で犯罪の相談とは、中々に倒錯的だが仕方無い。



「第2回偽キッドに一票」



「.....私ばっかり働いてない?」



彼から恩返しを貰えるのは何時になる事やら。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時

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