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File.7-8 ページ41

「朝から仲睦まじい事ね」



授業も始まろうかと言う中、態々屋上まで遣って来たのは小泉紅子。



バレンタインデーに快斗にチョコレートを断られ、怪盗キッドに魔法だか魔術だかの不可思議な何かを仕掛けて籠絡しようとした女。その素振りや快斗の言い方からして、怪盗キッドの正体を知っていると思われる人物。



「映画って夜に観た方が楽しい事もあるでしょう?」



何度も読んだ本の文字を追いながら適当に返していれば、頭上から影が掛かる。目の前に立ったらしい彼女の所為で手元が暗くなったが、文字が読めない程でもない。



「貴女が観ているのは映画なんかじゃないわ。御伽噺でしか存在しない、瞞しの不思議の国ではなくって?」



「残念、今読んでるのは『バーネット探偵社』」



全く以て噛み合わないが、会話を合わせる気も無い。



ぱらぱらと捲りながら文字を追う中、其を遮る様に伸ばされた手が本を攫っていく。釣られて顔を上げた先の視界に入った小泉紅子は至極不機嫌で、不愉快さを隠す心算も無いらしく綺麗な顔を台無しにしている。表情其の儘に「巫山戯ないで」と頬を膨らませる彼女は、魔法が如何だとかを差し置いて可愛らしい。



快斗曰く、苦手な女らしいが、何が苦手なのか定かでは無い。



「巫山戯てはないけど、話し掛けてきたのは紅子ちゃんでしょう?」



空いてしまった手を下に降ろして、ふわふわの頭を撫でる。「用があるなら聞くけど」と見上げた先の彼女へ首を傾げてみせれば、不機嫌極まる表情が僅かに和らぐ。



「あれは彼の罠よ。黒羽くんを美術館に行かせるのはお止しなさい」



「ん?うん...?」



彼も罠も、止せと言われてる理由も分かるけど。一応分からない振りをしておく。屹度そんな茶番に意味は無いけれど、気付かれてるのと正面から認めるのでは訳が違うから。



「彼が黒羽くんを捕まえる為の罠なの!だから行っては駄目よ!」



困惑した表情を見せても尚変わらず語気強めに迫ってくる彼女に、未だ寝た振りを続ける快斗を起こそうかとすら思ってくる。



「あ、うん...何か良く分からないけど、快斗が捕まる?のね、分かった大丈夫...」



ぐいぐいと身体を近付けてくる彼女に圧されて仰け反ってみても、ベンチに座った儘では距離等開く訳も無い。相変わらず強い圧の儘「まだ惚ける気!?」と迫って来る彼女は諦める気等欠片も無いらしい。



彼も困った魔女に好かれたものだ。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時

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