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『聡慧の息吹』
国立博物館の特別展覧会で展示されているオブジェ。猫程の大きさの純金で出来た天使の像が、猫の頭より大きなホワイト・サファイアを抱えている作品。
ホワイト・サファイアには神聖な力が宿ると信じられており、知性を授ける石だと言われている。その昔、聖なる恩恵を信じて作られたその天使が抱いているのは隠すまでも無くビッグジュエル。
両親どころか祖父母の時代から怪盗家業に勤しむ私が態々ビッグジュエルに固執する理由は無いのだが、祖父に近付いて認められたかった祖母、祖母に言われる儘跡を継がされたは良いが黒羽盗一氏に憧れて追い掛けた母、という彼女達のように犯罪を犯していく明確な目的が私には無い。だからこそ、黒羽盗一氏の死の原因の為に死んだ両親の、元々の原因である彗星の呪いを解いてしまおうと。
そう思っただけに過ぎないのに、最近では両親の事も構わないかと思ってきているのだから、実に親不孝な薄情者だ。
快斗が盗一さんの為に頑張っているから。彼の手伝いが出来ればそれで良い、なんて思い始めている辺り如何なものかと思わなくも無いが、結局辿り着く場所は同じなのだから理由など何でも良い。
まあ、彼はビッグジュエルの秘密等まだ知らないのだけど。
夜風が緩やかに流れていく中、博物館屋上を這う配線から辿って突き止めた中央配線が集まるサーバールーム。黒のシャツに黒いパーカー、黒のパンツに黒いスニーカーという格好に、黒のキャスケットという怪しさしかない服装で忍び込んだ電算機室は、暗闇の中メインフレームが立ち並び電気的な不気味さを隠す心算も無く所々明滅を繰り返している。
暗闇に目が慣れるまで数秒。幾つかの配線を手繰り、手持ちのパソコンを接続してプロービングを掛けていく。休日なら事前に遠隔操作でも何でも侵入する手立てはあったが生憎昼間は学校で、もっと言えば帰りにはチョコレートを半分持たされた挙句、何故か私の家の地下へ放り込まれた。
そろそろ彼を咎めた方が良いのだろうか。
いや、まあ我が家を自宅より気軽に出入りされるのは別に構わないのだけど。折角のバレンタインデーに義理にせよ本命にせよチョコレートをくれた女の子に申し訳無い気分になる上に、契約的とは言え仮にも好き合う者同士、大量のバレンタインチョコを保管させられる私は何なんだか。
少しばかりの苛立ちと共に押したEnter keyは、暗闇の中に酷く響いた。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時