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予告現場に素顔で乗り込む泥棒は、世の中に一体何人居るのだろう。
然も探偵の招待で、だ。
「ちょっと快斗、今日一緒に映画観に行こうって...」
自信満々に探偵の申し出を快諾した快斗の袖を引き、在りもしない予定を反故にされたと不満をぶつけてみる。私からしてみれば特別この遣り取りに意味は無いが、白馬に言われる儘動いても良い事が無いのは分かりきっているから。
そんな私に首を傾げるでも無く「あー、そうだよなぁ...」なんて考える様な声を出しながら、ウィッグの乗った頭に手を乗せてくる。とは言え、彼は売られた喧嘩は買う主義らしいので探偵さんの要求を断る事は無いのだろう。
「では、貴女も今夜如何ですか?美術館へ招待しますよ」
「.....デートの邪魔する人は嫌いだからイヤ」
うりうりと頭を混ぜられながら舌を出して探偵さんの申し出を断る。彼が本当に素顔の儘探偵と共に予告現場へ行くのだとしたら、私が裏方か将亦舞台に立つか、兎も角役割が生まれるのは必定。私まで粗素顔で乗り込む訳にはいかない。
特に何も含みの無い声で「それは残念です」と返してくる白馬を無視して立ち上がる。予鈴の鳴った時間、今から何処かに行こうという生徒はいない。そんな中突然立ち上がった私に「どした?」と声を掛けてくれる快斗を見下ろして、冷めた視線を切る。
「快斗に振られたから、今日遊んでくれる人探してくる」
小さく鼻を鳴らして教室を出れば、背後から「お、おいっ!?」なんて声が聞こえてくる。それを無視して出た廊下を進んで階段を昇る。バタバタと追い掛けてきた快斗は引き留めるでも無く、溜息を吐きながら隣に並んで屋上へ。
「さて、作戦会議といきましょうか...My lord.」
後ろ手に閉めた扉から離れて、屋上に設置されたベンチへ腰を下ろす。隣に座るかと思われた彼は其の儘ベンチに寝転がり、脚に頭を乗せてくる始末。
「ったくよー、あのヘボ探偵気にする事ねえって」
お前の所為なんだが、とは思うが彼のこういう部分を責めても仕方無い。
溜息を盛大に漏らしながら「彼、気付いてる気がするんだけど」と零して、眼下の柔らかい髪を撫でる。ふわふわと朝風に揺れる髪は見た目通りに指通りが良く、飽きが来ない。
「あいつがぁ?」
咋に「はぁ??」なんて顔をしていた快斗が加えて口を開きかけた瞬間、屋上の扉が音を立てる。
彼が寝た振りをし始めるのと、私が本を読み出すのは同時。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時