File.7-4 ページ37
結局、シャワーを5分で済ませて制服に袖を通した快斗が戻って来たのは10分以内。直ぐ戻るという宣言も嘘では無かったらしい。
「ところで、寝坊したのは態とでしょう？」
白い平皿に並べたフレンチトーストにバニラアイスとホイップクリームを添えながら「別に嘘つかないでも良いのに」と言い足して、蜂蜜とメイプルシロップを用意する。
「あー...やっぱバレてたのね」
出来上がった皿とカトラリーを手にダイニングへて運ぶ彼は僅かに苦笑しながら、特に狼狽えるでも無く口を開いて自白を漏らした。
如何やら彼も隠し通す心算は無いらしい。
「微かにカカオの匂いがしてたのと、蛇口から直ぐにお湯が出た...それに外の電気メーターが回ってた。給湯器の凍結防止用の電気にしては勢いがあったし、起きて電化製品でも動かしてたんだろうけど」
淹れたココアをダイニングテーブルに置きながら、先に椅子へ座っていた彼へもう一杯のマグカップを差し出す。それを受け取っていく彼は困惑する事無く楽しそうに。
「手をあたためておかなかったのは減点」
彼が私に触らなければ気付かなかっただろうに、寝起きとは思えない程冷えた手が微かな違和感を助長させていた。屹度いつも通り朝早くから起きて家事やら今夜の準備やらを片付けていたのだろう。三月とは言え未だ冷える朝には指先の熱が奪われても仕方無い。
「しゃーねえだろ...おめぇがずっと呼ぶから、つい急ぎたくなっちまったんだよ」
受け取ったココアを傾けていく快斗は不貞腐れたように視線を逸らして、二口三口とマグカップの中身を減らしていく。仕方無いも何も自分で生み出した状況であるのだろうに、何故私が文句を言われているのやら。彼が用意してくれたカトラリーを取ってフレンチトーストに手を伸ばす。
「でも良かったんじゃない？」
アイスを掬ってフレンチトーストに乗せながら、
「押して駄目なら引いてみろ、って事なら大成功なんだし」
良く焼き色の付いたデニッシュを一口頬張る。
砂糖の焦げたような部分はカラメルのほろ苦さを漂わせ、パンの柔らかさと相俟って中々悪くない出来栄えだ。だと言うのに対面の彼は「へ...」なんて間の抜けた声を上げているだけで、朝食には手を伸ばしてくれない。
「冷めるよ？」
「あ、ああ...」
メイプルシロップに手を伸ばしながら問掛ければ漸くと動き出したようだが、矢張り食欲は無いのかも知れない。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月27日 11時
