File.7-2 ページ35
ばさばさと乱れた髪を余計に掻き回す彼に小さく笑みが零れる中、バツが悪そうに視線を落とす快斗を覗き込んでみる。
「フレンチトーストでも良い?」
コンビニエンスストアで購入してきた袋を掲げてみせれば「あー...」なんて零れる声。この反応はフレンチトーストが嫌なのか、それとも別の何かの理由か。まあ考えられる可能性は幾つか思い浮かぶが、一番濃厚なものとして候補はある。
他人を家に上げたくない人間、というのは少なくない。
「...んー、やっぱり良いや。遅刻しないようにね」
持ち上げた買い物袋を扉の内ノブに引っ掛けて、ひらりと手を振る。取り敢えず買ってきたパンも牛乳も卵も、持ち帰っても悪くするのが目に見えているし、今更一度帰宅するのも時間の無駄。勿論、学校に買いたての生ものと乳製品を持って行く気は無い。
返した踵を一歩に変えて踏み出した先は、
「...?」
地面に着く前に引き留められて止まった。
背後から腕を掴んできたのは間違いなく寝起き姿の快斗であり、振り返った先に居たのも当然快斗。だと言うのに相変わらず視線を下方で彷徨わせながら「あ、いや、えっと...」なんて口篭って、一体何を如何したいのか全く伝わっては来ない。
「.....帰らない方が良い?」
「お、おう...」
一応返答はあるらしい。
かと言って其を契機に何かを話し出す訳では無いようで、その後も数秒の沈黙が戻るだけ。
「なら待ってるから支度してくる?」
「いや、寒いから中で、その...」
「朝ごはん作ってようか?」
「.....ん、」
何だこいつ、なんて思わなかった訳じゃないけど。成程、年頃年頃と口煩く表現される年代は、何かを要求するのも躊躇われたり恥じらいを感じると言うが、こういう事なのだろう。普段は図々しく入り浸って好き勝手に過ごしている癖に、自分がされる側に回ると慣れないのかも知れない。
小さく頷いた彼が腕を引く儘玄関口へと足を踏み入れる。「おじゃまします」と言いながら上がり込んだ家は、見た目に違わず大きめの一軒家。全体的にすっきりしていて個性的過ぎない家具やインテリアは、モデルルームだと言われても納得する様なお洒落な雰囲気。
「マジで悪ぃ、目覚まし止めたのも覚えてねぇんだよなー...」
我先にと廊下を行く快斗に着いて、ノブに提げていた買い物袋を持ち直してリビングへと向かう。
勿論、其処も統一感を持って朝の涼やかさを抱き締めていた。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時