File.7 不思議の国のキッド ページ34
•˳୭❃̥˚•˳୭❃̥˚•˳୭❃̥˚•˳୭❃̥˚•
毎日居て、毎日ご飯を作ってくれて、毎日世間話をしてくれる。
そんな奇跡と幸せが当然では無いなんて、知っていた筈なのに。本当は、知っている心算になっていただけなのかも知れない。分かるのと出来るのが異なる様に、知っているのと理解しているのも違うのだろう。
朝起きて、一人だった事が無い訳では無い。
休日は一人で過ごす事もある。平日でも今朝の様に起き抜けに誰も居ない事は何回かあるが、カフェオレを淹れて飲み終わっても誰も訪ねて来ないのは、果たしてあっただろうか。
スマートフォンを眺めても誰からの便りもなく、静かな朝。昨日工藤新一と初対面の遣り取りを済ませて帰宅してからも、特別連絡は無く、彼も仕事だからと何の連絡もしなかった。
ただ、それだけ。
なのに何故か落ち着かないのは、私の傲慢。
こういう時、一般的な思考では何をすべきかなんて分からないから。
「かーいーとー、おきてー」
玄関のインターホンを連打してみる。
時刻は、登校するには未だ早く、然し何時もの彼ならとっくに家に来ている時間。一般家庭の玄関の鍵を開けるのも、窓を開けて侵入するのも容易いが、隣は中森宅。誰かに見られても困る以上、正攻法で挑むしかない。それに、毎日朝食は用意してもらってばかりからと買ってきた食材達を抱えてベランダまでよじ登るのも面倒。
後三回押して誰も出なかったら帰る。学校にも行かない。
そう決めて押した一回目のインターホンが鳴り止むより早く、バタバタと言うには控え目過ぎる様な、誰かが暴れているか取っ組み合いの喧嘩が起き始めたかの様な騒音が聞こえ出し、次第に近付く其が走る足音だと認識した直後。
「っ、わりぃ！寝過ごした！」
良過ぎる勢いで開いた玄関扉が鼻先を掠めた気すらしたが、蝶番が外れそうな扉よりも凄まじい騒がしさで謝罪を投げ付けてきた快斗の方に驚く。
「.....ごめん、起こした...よね」
ふわふわと遊ぶ毛先は普段より愉快に踊り、未だ肌寒い朝晩に合わせた部屋着は厚手で暖かそう。
誰が見ても分かる寝起き。
あれだけ連打しておいて起こしたも何も無いが、本当に寝ていたのだとなると突然申し訳無さが込み上げる。矢張り連日の仕事は疲労も溜まるだろう。
今夜も決行する筈だが、大丈夫だろうか。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 58人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月27日 11時
